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 入れ替わるようにマンガを手に悠がリビングに入ってきてから、どれくらい時間が経ったのか。正直分からない、長いようでもあるし短いようでもあるし。

 この不思議な時間感覚に終止符を打ったのはリビングのドアの開く音。

 つまり、叔父さんが再び俺達の前へ。

「何人かに確認をとってもらったけど、どれもその部分は落丁だった。……それと俺の記憶が間違いでなかったことも裏付けがとれた。……どうなっているんだ、これは」

 空白の部分を指でなぞりながら叔父さんは独り言のように。

「園田と筒井の間か。……誰かいたか? ……いや、いたはずだ。……誰だったか……」

 二十年以上前の記憶を必死に呼び起こそうとしている叔父さんの独り言は続く。

 とてもではないが声をかけるような雰囲気ではない。

 そんな叔父さんに、まるで自分のことに気付いてほしいとアピールするかのように手を胸の前で組んで祈る響子。

 その姿を見ていると胸が苦しくなってくるような。

「……た、た、た、高橋、違うな。高木……も違う。た、た、高山じゃない……高井。……そうだ、高井さんだ」

 叔父さんは響子の名字を口にした。

 響子の顔が一気に綻んでいく。

 喜ばしいことのはずなのに……。

「そう、高井だ。俺と同じ高校に進学して、部活も一緒だったのになんで今の今まですっかりと忘れていたんだ」

「それは本当ですか?」

「ああ、彼女は文章を書くのが上手くてさ。俺も密かに自信を持っていたけど彼女には敵わなかった、才能の差というものを感じたよ」

「けど、その高井さんの書いた文章は同人誌のどこにも存在していませんが」

「そんなはずはないよ。三年の時は彼女の小説が巻頭を飾ったんだから」

 三号目の巻頭から数ページは白紙状態だ。

 その事実を先輩が叔父さんに。三冊目の同人誌を開いて見せる。

「なんでだ。……ここに書かれてる小説を読んで筆を折ったというか、俺には無理だなと悟り、小説で飯を食っていくという密かな夢を捨てたのに。……それなのに、どうして消えているんだ」

 頭を抱えて悩む叔父さん。

 そんな叔父さんの肩に触れられない手を乗せて慰めるような仕草をする響子。

「……響子」

 思わず声が出てしまう。

「……なんで竜が高井さんの名前を知っているんだ?」

「それは……」

 どう説明したらいいのか分からない。咄嗟に横にいる先輩の顔を助けを求めるように見るが、先輩は困った表情を浮かべている。

 多分俺と同じだ。

「だって、響子ちゃん学校で幽霊になっていたから」

 これまで全く会話に参加していなかった悠が。

「はあ? どういうことかな悠ちゃん?」

「えっとね、響子ちゃんは高校の怪談話の幽霊になっていたんだだけど、竜ちゃんに憑くようなって外に出られて、それで今はそこにいるよ」

 悠は響子のいる方向を指し示す。

 しかし、この場で響子の姿を見ることができるのは俺と悠だけ。

「……そこにいるのか。高井さんが?」

 そう言って叔父さんは悠の指した方向へと手を伸ばす。

 その手と合わせるかのように響子も。

 だけど、響子の手は叔父さんの体を素通りしてしまう。

 響子の顔がまた悲しそうなものに。

 それを見ているのは痛ましい気が。

「本当にいるのか?」

「……うん」

「俺をからかっているんじゃないだろうな?」

 そんなつもりは全然ない。響子がいるのは紛れもない事実。

 俺は、これまでの経緯を全部、包み隠さずに叔父さんに話した。



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