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約束をした日。俺と響子、そして先輩、ついでに悠、合わせて四人で叔父さんのマンションへと。
「よく来たな。ああ、悠ちゃんも一緒か、いらっしゃい、久しぶりだね。それで君が竜の先輩で、僕の後輩でもある子か。……まあ、兎に角中に入って」
玄関先で出迎えてくれた叔父さんに通されてリビングへ。
昔はよくこの部屋に俺と一緒に遊びに来ていた悠は叔父さんに断りもなく壁一面が本棚の、大半がマンガ、書斎へと。
響子は叔父さんの頭上へと移動。
心なしかなんか嬉しそうな顔をしているような気がするけど、これは俺の気のせいだろうか、……それとも別の理由があるのだろうか。
「何か飲むか? コーヒーがいい? それとも紅茶? 竜はアルコールでいいか?」
思案に更けている俺に叔父さんが。その提案はすこぶる魅力的だけど、それはまた今度で。叔父さんの上にいる響子がちょっとだけ怖い顔して見ているから。
「今日はお時間をとっていただいて、ありがとうございます」
「いや全然、別に構わないよ。俺も若い子と話ができるのはすごく嬉しいことだからね」
あ、響子の顔がまたちょっと、いやさっきよりも怖いというか険しいものに。
「それでさっそく本題なんですけど……」
「えっと、同人誌の白紙部分だったかな。当時の記憶は曖昧だからな。それに素人が創った本だからミスはそこかしらに点在しているはずだし。……まあ内容よりも本を完成させたという達成感の方が強くあったような気がしたしな」
当時のことを思い出しながら話しているのだろうか叔父さんは遠い目をしながら言う。
「それもありますけど、今日お邪魔したのは別の問題も発覚したからなんです」
「別の?」
「はい。大島くん出してくれるかな」
先輩に言われて俺は家から持ってきた叔父さんの中学時代の卒業アルバムを出す。そして名簿欄のページを開き、不自然に白くなっている部分を指し示す。
「何だこれ? 落丁か。……いや違う、卒業式の後でクラス全員でこの名簿欄はちゃんと確認したんだから。その時はこんなものなかったはずだ」
「それは確かなことなんですか?」
「ああ、間違いない。確認作業をする要因になったのは俺が原因だから。ちゃんと記憶している」
「本当なの?」
「竜が今住んでいる家に引っ越したのが、俺が中三の秋。その時転校したくなくて、まあ色々と小細工をして、その結果卒業アルバムには昔の住所が記載されていたから、それをクラス全員手書きで修正してもらった。その時他に間違いはないか、みんなで入念にチェックしたからな」
「間違いないのですか」
「うん、……とは言い切れないな。……記憶力の落ちる年代になってきたし、それに案外記憶というのは嘘をつくという知識もあるかなら」
「確かめる術はないの?」
叔父さんの上を漂っている響子の不安そうな顔を見て、思わず声を出してしまった。
「ちょっとだけ時間をくれ、何人かに確認をとってみるから」
そう言って叔父さんは卒業アルバムを手にして席を立ち、さらにはリビングから出て行ってしまった。




