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 再合流した俺達は、とりあえずに最寄り駅に。

 とくに理由があったわけじゃないけど、なんとなく歩く方向としてまあ妥当だろうと。

 当てのない行路だ。

 風の吹かれるままにとはいかないけど、適当に散策して響子の記憶にひっかかるものを探すのが目的。

「あ、駅ってこんな感じに建て替えられたんだ」

 いかにもローカル駅といった平屋の駅舎。それを見ての響子の言葉。

「もしかしたら響子さんは電車通学だったかもしれないわね。だとしたら、この辺りを歩くのは無駄骨になるかも。明日、また電車通学するエリアの中学付近を探索するのが得策かも」

 悠の伝言により情報を得た先輩が思考しながら見解を述べる。

 たしかに、電車通学ならこの近辺を歩き回っても時間と体力の無駄だ。

 ならば、引き返すのか。どうせ、連休で明日も休みだし、することも別にないし。

「違うよ。小さい頃からよく利用していたの」

「は?」

「だから、この駅から電車に乗ってよく病院に行っていたの」

 それはつまり……。

「お前はこの辺に住んでいたってことか」

「……うん、多分」

「多分ってなんだよ」

「ちゃんと思い出したわけじゃないから、確証はないけど。……なんとなくだけど、この辺りのことが記憶にある、というか今、思い出したような」

 つまり足元にヒントが転がっていたというわけか。

「まさに灯台下暗しね」

 響子の言葉を悠から聞いた先輩がぽつりと漏らす。

 まさにその通りだと思います。


 駅からの伸びる道は踏切を挟んだ変則的な十字路になっていた。

 南側の道はさっき歩いて来た道。となると、進むのは東西のどちらか。北側にも一応線路の沿った狭い道があるけど、とりあえずは建物が多そうな東か西か。

 東側の方が家は多そうな気が。後、道も広いような気もするし。

「じゃあ、東に行きませんか」

 提案する。

「そうね、そっちの方が家も多そうだし」

 先輩もどうやら俺と同じ考えのようだ。

 東に向けて進路を取ろうとした。

「待って。こっちの道に行こうよ」

 そう言いながら響子が指示したのは北側の狭い道。そんな道を通っても多分何もないぞ。

「せんぱーい。響子ちゃんこっちに行きたいって」

 無視しようとしたけど、俺同様に響子の声が聞こえる悠によって先輩に進言されてしまう。

「何か思い出したの?」

「うーん微かにだけど、確かこの先に本屋さんがあったような気が。さっきまでは全然分からなかったけど、急に思い出したというか」

 なんだよ、確証はないのかよ。

「行ってみましょう。別に間違っていても戻ってこればいいだけだから問題なんかないわよ」

 悠を介して響子の言葉を受け取った先輩は言う。

 まあ、それもそうだな。

 どうせ狭い道だ。すぐに行き止まりかなんかで引き返すことになるだろう。

 三人、プラス幽霊一人の道程。

 しかし本当に狭いな。けど、その割には道路沿いの家は結構広い。家だけじゃなくて庭も。その理由はすぐに判明した。

 農家か。そういえば、高校付近には結構田園風景が広がっていたな。

 そんなことを考えていたら突如背後からクラクションの音。

 背後からの音は結構ビックリする。けど、驚きは音よりも、こんな狭い道、車一台分くらいしかない道路幅なのに車が通るのかの方が大きかった。

 端へと、壁ギリギリの位置へと退避した俺達を追い越していったのは軽トラ。後ろには田植えのための苗を積んでいる。

 本当にこの辺は田んぼが多いんだな。

 そんな場所に本屋さんなんかあるのか? それに今思いついたけど、そんな店があったのなら本好きの先輩が知っていてもよさそうなものだ。

狭い道がようやく終わる。この先は行き止まりではなく、どうやら丁字路のみたいだ。

 それなりに広い道に出るけど、言っていた本屋は影も形も存在しない。

「ないぞ」

「うんうん、あったよ」

 何処にあるんだ? 家はあるけど、商売をやっているような雰囲気はどの家にもないぞ。

「ほら、そこ。角のところ」

 響子はそう言いながら指さす。その方向には普通の家しか見えないぞ。

「ここなの?」

「うん、そう。こっち側だと分かりづらいけど向うの道に行けばすぐに分かると思うから」

 まあ、言われなくてもこんな狭い道から大きな道に出るつもりだし。

 丁字路の到着。

 件の建物を見る。たしかに商店だったような痕跡が。普通の家にはこんな大きなシャッターなんか必要ないはずだから。

「でも、このお店が本屋だったかどうか、これじゃ分からないわね」

 先輩の言葉はもっともだ。響子が思い出した店だから、少なく見積もっても最低でも四半世紀前からあるはず。それなりに古い。シャッターには文字が書かれていたみたいだけど全然読めない、というか判読不可能なくらいに消えている。

「証拠ならそこにあるよ」

 響子が指を。

 指し示す先に視線を送ると、そこにはやや消えかけているけど、書店という文字が。



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