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 自分では理解しているつもりでも、いざ人に説明するとなったらなかなか難しい。

 最初は上手く、要領よく先輩に話すつもりだったけど、なかなか思い通りにはいかない。

 それでもなんとか、時折に響子にも手伝ってもらいながら説明を続ける。

 俺の拙い話でも先輩は真面目な表情で聞き続け、気になった個所はノートに記している。

「……それにしても、どうして大島くんには見えるようになったのかしら?」

 俺に憑くまでのことを一通り話し終えた後に先輩が疑問を口に。

「それは俺の席が、例の怪談話の席だからでしょ」

 だから、見えるように、聞こえるようになったはず。

「でも、それだったらそれ以前に座っていた生徒全員が、その響子さんのこと見えるはずじゃない」

 先輩は俺にではなく、右横を見ながら言う。おそらく響子にも言っているのだと思うけど、残念。響子は俺の左横に浮いています。

「俺以前に見える人間はいたのか?」

 左を向きながら訊く。

「ううん、いなかった。そんな人がもっと楽しい幽霊生活を送れていたよ」

 そうだよな。俺が見えることに気が付いて纏わりついてきたんだよな、最初は。

 響子の言葉を先輩に伝える。

「そうなの。……それと響子さんはそこなの?」

 左を見ていた視線が、右に。

 おしい。さっきまではそこにいましたけど、今は別の場所に移動中。

「今は先輩の横で、耳元で声を出していますよ」

 移動した響子は先輩の横でしきりに「聞こえますか」と呼び掛けているけど、どうやら届いていないようだ。

「はあー」

 先輩の口から大きなため息。

「どうしたんですか?」

「大島くんを介して話が聞けるだけでも十分だと思うけど、直接話ができないのが少し残念だと思って」

 それは響子も同じようです。先輩の横で小さく肩を落としています。

「でも、悠さんは見えるようになって、話ができるようにもなったのよね。もしかしたら私にも可能かもしれない」

 見るようになった要因は、おそらく……。

 けど、流石にそんなこと言えるはずないし。

 黙ってしまう、顔を見ることができずに下を向いてしまう。

「竜ちゃんとエッチしたらせんぱいも響子ちゃんとお話できるようになると思うけどな」

 ドアが開いて悠が登場。

 遅い、時間がかかりすぎと思ったら、ちゃっかりドライヤーまでかけ、メイクまでしていやがったのか。もっと手早く、簡単に済ませておけよ。先輩が来ること分かっていたはずなんだから。

 いや、それよりもお前はなんで登場早々にそんな爆弾発言を放り込むんだ。

 見ろ、先輩が見事に固まっているじゃないか。

 たしかにヤッタ後で見えるようになったけど、それが原因である可能性は高いけど、絶対にそれだという確証はまだ得ていないだろ。

 だかこそ、俺は先輩への説明でその辺りを濁して話していたのに。それなのになんでお前はそんなにデリカシーもなくストレートに、女子らしい恥じらいを捨てて言うかな。

 驚いたのか、それとも呆れているのか、しばし先輩は黙ったまま。固まったまま。

「……驚いた」

 沈黙の後、第一声がそれだった。

「仲が良いとは思っていたけど、二人はそういうことするような仲だったんだ」

 白い肌があっという間に赤く染まっていく。見事なまでに首まで。朱に染まるというのは文学的な表現とばかり思っていたけど、実際に起こることなんだ。

 いや、凄い。見たら悪いかもと思っているけど、目が勝手にいってしまう。

 見られていることを意識したのか、先輩の顔色は一層あかに。もともと白いからけっこう際立っている。

「せんぱいってこの手の話駄目なの?」

 悠の問いに先輩は黙ったままで肯く。

 下ネタは駄目なのか。でも、それでもあれだけの話でこんなに赤面しているとはいったい頭の中でどんなことを想像したんだ。見かけは初心だけど、意外とムッツリな性格かもしれない。

「それじゃ、この方法は駄目か」

 ああ、駄目だ。言わなくても分かるだろ、この方法は不許可なことくらい。

「……待って。……大島くんとエッチなことをすれば、……響子さんと話せるのね」

「分かんないけど、多分」

 無責任なことを言うな。

「や、分かんないですよ。偶々した後で見えるようになっただけかもしれないし」

「やってみなくちゃ、分からないか」

「うん、そうそう」

 だから確証もないのに、そんな煽るようなことをするな。

 それに響子も何か言えよ。さっきからずっと黙ったままじゃないか。

「……分かった。……私、大島くんと……するわ」

「いいんですか、本当に?」

 自己処理しようとした時には萎えていたのに、また急速に俺の中で発達し始めた邪なものを発散できるから、ある意味都合が良いけど本当にして大丈夫なのだろうか。

 この態度から察するに、どう見ても先輩処女だろ。俺なんかが初体験の相手でいいのか。

「……将来創作活動に携わりたいと思っているの。だから、こういう滅多にないような経験のチャンスを逃したくないし。……それに尊敬している作家の先生が捜索のためならファーストキスの一つや二つくらい平気で捨てると仰っていたし」

 いや、今からするのはキスどころじゃないんですけど、その先に行くんですけど。

 それでもいいんですか?

 もう一度確認を取る。

 先輩に意思は変わらないようだ。

「……お願いします」

 見事なまでに声が震えている。声だけじゃなかった。体全体が震えていた。

 緊張からか、それとも初めて経験する未知のことへの恐怖からか。

 そんな状態でしなくても。日を改めて、後日落ち着いて、それでもしたいと思っているならすればいいのに。

 ある意味、俺も心と体がバラバラだった。下半身は臨戦態勢に入っているのに、頭は罪悪感のようなもので一杯になっている。

「竜ちゃん優しくね。あたしの時みたいに強いのは駄目だからね」

 悠のアドバイス。

 ああ、分かっているよ。けど、本当にしていいのか?

 先輩の体を俺の方へと引き寄せる。拒む気持ちがあるのなら、ここで抵抗するはず。

 抵抗はなかった。すっぽりと俺の胸へと先輩に小さな体が。

 密着したことで先輩の震えがよく分かる。小刻みな振動が俺へと伝わってくる。

 伝わってくるのは震えだけじゃなかった。覚悟を決めているんだ、そんな決意も一緒に俺へと入ってくるような気が。

 ならば、俺もそれに応えないと。

 据え膳食わぬは男の恥じゃないけど、こんな展開になっているに応えないなんて男の恥だ。

 俺も先輩を抱く意志を強く固めた。そして、できうる限り優しく抱こうと決意する。

 左手で先輩の小さい顎をもち、俺の顔を、というか口を近づけていく。

「違うのー」

 あと少しで唇同士が触れ合う、キスをしようとした瞬間、響子の声がリビングに響いた。

「……何か聞こえた」

 あと少しでキスするまでの接近していた俺の体を押しのけるようにして先輩が呟く。

 響子の声が先輩にも聞こえたのか。となると、別にエッチなことをしなくて見えように、会話ができるようになることも可能。

 良かったような、少し残念なような。複雑な気持ちになってしまう。

「どうゆうこと?」

 そう、違うってどういうことだ。悠が代表するかのように疑問を口にする。

「あのね、だから違うの」

「だからどういうことだ?」

「えっ? 何? 響子さんが何か話しているの?」

 先輩が聞こえたのはどうやらあの一言だけみたいだ。今のやり取りは聞こえていないようだし、おそらく見えてもいないだろう。

「だからね、違うの」

「だから、それはどういうことだって訊いているんだ」

「……悠ちゃんが私のことを見えるようなったのはエッチしたのが原因じゃないの」

「それじゃ、理由は何なんだ?」

「あの? 一体何が起きているの?」

 困惑している先輩の声。そうだよな、俺の声しか聞こえていないんだから。

 理由は分からないけど、何故か恥ずかしそうに体をもぞもぞしだ。顔も、さっきの先輩に負けないくらいに朱に染まっている。耳や首までも。

「響子ちゃん、真っ赤ー」

「そうなの? さっきは声が聞こえたのに」

おもった このままでは進まないような気がする。

「とにかく。……まずは違うという理由を説明してくれ。あ、後悠は響子の言葉を先輩に伝えてくれ」

「了解」

 役割分担だ。俺が聞き役になる。悠じゃ絶対に脱線しまくるはずだから。



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