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 素早く汗を洗い流して悠と交替。

 リビングには俺と響子。気まずい空気が二人の間に流れているような気がした。

 二人きりになったリビングは沈黙という二文字が支配していた。

 何かしら話でもしていないと間が持たないような気が。そうは思っても話題が頭の中に浮かんでこない。

 結果、黙ったまま。

「……エッチて、……セックスってあんなに激しんだね」

 響子がぽつりと漏らす。

 それにどう答えろというのだ。あれは俺の中に溜まっていたものが一気に噴出して結果で、いつもはもう少し楽しみながら行為を行うとでも説明すればいいのか。

 いや、そんなこと恥ずかしくて、やることはやっていても、とてもできない。 

 黙ったままに。響子もそれ以上は何も言わない。

 気まずさが倍増、いや二乗(じじょう)していく。

 早く先輩来てくれないかな。そうすれば、この事態を打破してくれるはずなのに。それか悠が早く出てきてくれてもいい。いや、それは無理だ。アイツは昔から長いから。短時間でシャワーが終わるはずない。

 だとしたら、先輩一刻も早く来てくれ。

 祈り続ける。

 祈りが通じたのか、それとも先輩に家が思ったよりも近かったか、とにかく先輩が。

 悠はまだシャワーの真最中。ということで、俺が出迎える。

 俺が対応したからだろうか先輩の驚いた声がインターフォン越しに。そんなに驚くことか? ああ、もしかしたら悠は俺がいることを伝えていないかもしれない。その可能性が高いような気がする。それならば先輩の驚きも納得できる。

 とまあ、俺だけが納得して、外で困惑している先輩を放置しておくわけにもいかない。玄関が開いていることを伝え、中に入ってもらうことを伝える。

 玄関先にいた先輩は、いつもの部室での先輩と印象が違った。

 見慣れた制服姿じゃない、というかその恰好の先輩しか知らないけど、ジーンズにパーカー。文学少女からは程遠いようなラフな服。

 それにしても先輩って意外と下半身が太いな。部室では大抵座っているからそこに目が行くことはないけど、立ち姿で、ついでにシルエットが出るようなパンツスタイルだとよく分かる。まだ俺の中に発散しきれていない邪なものがあるからなのか、大きめのお尻に自然と視線が行きそうになるのを必死で堪える。

 とにかく、いつまでも先輩を玄関に立たせておくわけにもいかない。

 リビングへと通す。

「ねえ、竜ちゃん。先輩にお茶でも出したら。少し汗が浮かんでいるから、電話をもらって急いで来たと思うんだ」

 響子に指摘されて気が付く。たしかに先輩に額にはうっすらと汗が浮かんでいるような気が。下半身、というかお尻にばかり気を取られていて気が付かなかった。

 けど、どうすればいいんだ?

 一応、何回も通った勝手知ったる家だけど、台所周りのことまではよく知らない。コップが何処にあるのかなんて当然分からないし、そもそも冷蔵庫を勝手に開けていいのだろうか。

 逡巡してしまう。

「あの、悠さんは?」

 考えあぐねて困っている俺に先輩が。

「……あ、えっと……ちょっと用事があって。すぐに来ると思いますから」

 事後のシャワーを浴びているなんて素直に報告できないからな。

「そうなの。……電話じゃよく分からなかった学校の怪談話の幽霊の話を詳しく聞こうと急いで来たのに」

 先輩はすぐにでも本題に入りたいみたいだ。

「それなら俺が話しますよ」

「大島くんが?」

 さっきのインターフォン越しの声よりも驚いたような音。それと、表情。

「はい、俺のほうが詳しく話せるはずですし。悠よりは確実に分かりやすいと思いますし」

 なんせ当事者だ。さらに響子という強い味方もいるし。なによりも、すぐに話が脱線してしまう悠よりは絶対に上手く伝える自信があるし。

「そうなの。それじゃお願いね」

 対面で座り、先輩は鞄からノートと筆記道具を取り出す。

 聞くだけではなく、ノートを、記録を取る気満々のようだ。

 さてと、何か話すべきなのだろうか? やはりこういうものは時系列に沿って話した方が分かりやすいだろう。

 そう考えて、俺は入学式からしばらくしてから見るようになった夢のことから話し始めた。



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