50
まるで、人魚のようだ。
わざと国道一号線から外れて、田植えを終えたばかりの水田の間を走る。
この辺りは古い家が多いのか、大きな鯉のぼりが風にたなびいているのが遠くに見えた。
そんな中を気持ち良さそうに飛んでいるのだ。下半身が着替えとともに魚になったわけじゃない。それなのに人魚のように見えてくる。
ひらひらと舞うスカートはまるで鰭のよう。
そこから伸びる白い足。
着替える前は黒いタイツだったから、生足に少しドキっとしてしまう。
慌てて目線を外す。足から上半身 へと移動する。さっきエッチと言われたけど、これ以上見ていたら指摘通りになってしまう。
白いセーラー服がたなびいている。幽霊だから風の影響や、物理法則なんかに左右されるはずなんかないはずなのに、薄い服が揺れている。
時折、真っ白なお腹が目に入る。
見慣れている悠のとは違い、細く、今にも折れてしまいそうだ。
別の腰フェチとか、お腹フェチとか、あるいはへそフェチといった性癖は持ち合わせていないはずなのに何故だかそこにエロスのようなものを感じてしまう。
可能であるならば抱きしめたい、そんな衝動に駆られそうなる。
けど、響子は幽霊。触れることはできない存在。
それにさっき釘を刺されているし。
急いで目を離さないと。いつまでも見ていたいような心境だけど、ずっと見ていたら気付かれてしまう。
なのに、目が離せない。
ずっと前方にあったはずの白い腰が俺の右横に。
「危ない」
響子が突然大きな声を上げる。
目の前にトラックが迫ってくる。というか、俺がどんどんと近付いて行っている。
前の信号が赤で停まっていた。
このままで突っ込んでしまう。事故になってしまう。
左右のブレーキを強く握るけどロードバイクの制動は間に合わない。
ブレーキをかけたままで左に体重をかける。トラックの左にわずかに空いている路側帯へと退避する。
助かった。もうちょっとで接触するところだった。事故を起こすところだった。
停止したロードバイクのトップチューブの上に体を乗せ大きく息を吐く。
「ちゃんと見ないと危ないよ。余所見でもしていたの?」
していた。
だけど、お前のお腹に見とれていたなんて言えないから話さないけど。
ちょっとエッチな気持ちに、ムラムラときたことは秘密だ。




