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「なあ、響子。……お前小説を書いていたんだよな」

 帰り路、ロードバイクを走らせながら後ろにいる響子に話しかける。

「……分からない。……昨日は書いた記憶があったけど、もしかしたらそれは私の思い違いだった可能性もあるし。……だってほら、長年幽霊やっていたから曖昧になっている部分もあるし、忘れていることも多いし。……いつまでも若いつもりだったけど、やっぱりおばさんになったのかな。……それにいつまでも落ち込んでいたら竜ちゃんに心配かけちゃうし。今日だって私を元気付けようと、こうやって連れ出してくれたんだよね。……ありがとう」

 後半部分は少し早口だった。

「……いや、書いているはずだ」

「だから、もういいって」

 投げやりな口調。そこには悲しみも加味されているように聞こえた。

「よくない」

「本当にいいから。……だってこれまで誰に気付かれなかったのが竜ちゃんに気が付いてもらった。それだけでも十分なのに外にも出してくれた。もうこれでいいよ」

 今のままで満足だと響子が言う。

 ならば、本人の意思を重視してこのままでいいのか。

 いや、よくない。……そう思う。

「さっきの店な、叔父さんが高校を卒業してからできた店なんだ」

「……えっ?」

「なのに、お前は行ったと言う。それに俺も知らなかった店長の名前を言い当てたし」

「それは偶然なだけかも」

 偶然が二度も三度も重なるわけないと思う。

 担々麺の味がしないくらい考えていたことを口に出す。

「俺はお前が高校に行かずに死んだとは思えない。本当はあの高校に通って文芸部に叔父さんと一緒に所属して同人誌に小説を書いていた。そのはずなのに、何らかの原因でその時の記憶を失い創立時からの幽霊になってしまった」

「……」

 響子は何も言わない。

「響子がちゃんとあの高校に通っていたことを、小説を書いていたことを、俺が証明してやる。だから、お前も思い出したことがあったら言えよ、協力しろよ」

 ロードバイクを走らせながら、決意表明を。



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