43
持ち帰った同人誌、それから叔父さんの部屋から発掘した三冊。
計四冊を開いて、さっそく検証を始めた。
結果、白紙の部分は元より白いままではなかったことが判明した。
四号目の同人誌には三冊目の絶賛の感想が記された箇所があったけど、いくら探しても三号目にはその感想のもとになった小説は記載されていない。
けど、白いままのページにその小説があったと仮定すると、ぴったりと符合する。
さらに検証をしていくと、前の二冊もやはりあったはずの小説が抜け落ちている。
やはり、ここには何かが書かれていた。
だけど、どうして白紙になっているのだろうか?
「なあ、どうしてだと思う?」
いくら頭の中で考えていても分からない。一緒に見ている人間、というか幽霊に訊く。
何も答えなかった。響子は同人誌を見たまま、黙っていた。
俺同様に分からないのか。
まあ、この一冊で謎がすべて解決するとは思っていなかったけど。それでも何かしらの進展があると期待していたのに。
しょうがない。また、叔父さんに連絡を入れて何かしらの情報を引き出そう。そして、今度は先輩に知恵も借りてみよう。
「……どうして消えているの」
ずっと黙ったままだった響子がぽつりと漏らす。
その謎を解明しようとしたけど駄目だった。当時の執筆者の一人も記憶がないんだから仕方がないだろう。そう、言おうとした。
「……どうして、私が書いた小説がなくなっているの」
は? お前今、なんて言った?
「どうして? 何で?」
響子は高校に行けず、それが未練で幽霊になったのに、なんで文芸部の同人誌に小説が書けるんだ。
「どうして? 何で? 書いたのに、なんで消えているの?」
聞けるような、疑問を口にするような雰囲気じゃなかった。
泣いている。
泣きながら、繰り言のように恨み言、どうして同人誌の一部分は消えてしまったのかと嘆き悲しんでいる。
むき出しの感情をあらわにしている。
フィクションの世界なら、こういう時ポルターガイスト現象が起きて事態をより緊迫したものにするのだろう。
けど、響子はただ一人で泣いているだけ。
本棚の本が買って飛び出したり、部屋の電気が点滅したり、タンスの中の衣服が散乱したりしない。部屋の中は静かなまま。
だけど、俺の心の中を激しく波打たせた。




