40
翌日、帰宅後。
俺は部屋で制服から部屋着に着替えてバッグの中に入れてあった文庫本を取り出し廊下へと出た。
「どこ行くの?」
響子が疑問の声を上げるもの無理はない。たいていの場合、俺は自分の部屋で過ごすから。
答えずにそのまま歩き続ける。
俺に憑いている響子は自動的に付いて来る。
物置になっている部屋の前で足を止める。その部屋のドアにもたれかかり持っている文庫本を広げる。そして……。
「環境を変えると読書が捗るって先輩に教えてもらったから」
独り言のように言う。
けど、本当は違う。
「ありがとう、竜ちゃん」
響子は俺の意図を理解してくれたようだ。
壁をすり抜けて物置部屋、かつての叔父さんの部屋の中に。
さあ、思う存分探し物をしてくれ。
「竜ちゃん」
すぐに響子が部屋から戻って来た。そんなにすぐに見つかったのか。けど、この声は発見を喜ぶような嬉しそうな声じゃないな。
「部屋の中暗くて見えない」
そうだった。まだ外が明るいから電気を点けなくても平気と思っていたけど、この部屋はずっと雨戸を締め切ったままだった。
そんな暗闇の中で探し物をするなんて不可能だ。
しょうがない、入るか。
背もたれにしていたドアを開けで物置部屋に。
廊下の明かりがあるからまだ見えるけど、締め切った状態なら響子の言う通り何も見えないな、これじゃ。
ドア横に設置してあるスイッチを押す。しばしの間をあけてから点灯。ただし、点かない箇所もいくつか。
それでも光源は確保された。
これだけの灯りがあれば、探し物をするのに十分だろう。それに俺の読書をするのにも十分。
予想通りに足の踏み場もないけど響子には関係ない。フラフラと漂うにして部屋の奥にある本棚へと。
「無いよ~」
再開した読書を中断させたのはまたしても響子の声だった。
「本棚に入っていない」
「そうなのか」
「うん」
叔父さんの言葉通りに本棚に所蔵されているものばかりと思っていたのに。
記憶違いか? 勘違いか? もう一度確認をするべきか?
けど、この部屋全部を探したわけじゃないし、確認したわけじゃないし。
今度の休みにでも家探ししないといけないな。もうすぐ連休だし。
だけど、高校生が休みなのに家に閉じこもって探し物というのは少し侘しいような。
でもまあ、いいか。とくに予定があるわけでもないし。
でも、その前に。
俺の目と鼻の先に置いてある段ボールの箱を開ける。段ボールには、本、大きくマジックペンで書かれているから。
「……あった」
俺と響子、同時に同じ音が口から出る。
灯台下暗しとは、まさにこのこと。
一番手前の段ボール箱に中に探し物が入っているなんて。




