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「……ごめんね」
昨日は寝起き早々に驚かされたけど、今朝は起き抜けにすぐ謝られた。
一体何があったんだ?
昨夜は、というか寝る前はたしかパソコンを点けっぱなしにして、響子が退屈しないようにF1の総集編動画を流していたはず。俺が寝ている間に動画は終了するけど、幽霊だからパソコンに触れない。だから、そのままにしておいていいって言っていた記憶が。
この記憶の中に響子から謝罪を受けるようなことなんかないはずなのに。
理由を尋ねる。
起きてすぐだから、声が出ないけどなんとか通じた。
「あのね、昨日パソコンで動画を見せてもらって……」
うん、それは記憶している。
「その時、点けっぱなしでもいいって言われたけど……」
うん、それもちゃんと覚えている。
「でもね、点けたままなのは勿体ないような気がして……」
そのままでいいって言い含めておいたつもりなのに。それで問題ないと言っておいたのに。
「……なんとかしないと思っていた……」
もしかしたらパソコンを壊してしまったのか。
ああ、そういえば心霊関係のフィクションだと電気機器を壊すシチュエーションはあるな。
まあ、壊れてしまったものはしょうがない。
これは俺が別に物分かりが良いとか、物に執着しないとか、諦めやすい性格とかいうわけじゃない。
たんにパソコンの寿命がきたんだと考えたから。
このパソコンは叔父さんからの貰い物。俺のもとに来る以前にけっこう酷使していたから、近い将来こうなるというまあ予想はしていた。
でも、思ったよりも早かったな。
中にはよく観ていたデータもあったけど、それも叔父さんからプレゼント。また貰えばいいだけの話だし。
パソコンが爆発して大惨事になってしまったというわけじゃないんだから問題ない。
「気にするな。まあ、中古だからいつかは壊れると思っていたんだ」
「えっと……違うの」
「それじゃ、なんで謝るんだ?」
「あのね……。竜ちゃん……怒らない?」
「怒らないから早く理由を言え」
謝罪の理由についてアレコレと言うつもりはないけど、この一向に進まないやり取りには少々腹が立ってくる。
だから、ついつい語気が強くなってしまう。朝からこんなことしたくないのに。
「本当に?」
「ああ、本当だ」
しつこい、さっさと言え。
「なんとかしなきゃと思っていたらパソコンが操作できるようになったの」
それは謝るようなことなのか。どちらかといえば喜ばしいことなんじゃないのか。
今後、俺が就寝している間もお前はパソコンを楽しめるのだから。
「……それで見つけちゃったの。……竜ちゃんのよく観ているデータ」
はー。
「……ああいう子が好みなんだ」
なんでそんなものを見つけてしまうんだよ、お前は。
そういえば、お前が憑いてからは観ていないな。




