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 目覚めの良い朝じゃなかった。

「うわあああああああー」

 起き抜け早々、俺は悲鳴を上げてしまう。

 というのも、目を開けた瞬間、そこには女の顔があったから。

 これが、俺の顔の左右のどちらかにあったのなら色っぽいことであろう。

 だけど、顔があった位置は真正面。というか、真上。

 驚きの声を上げてしまうのも無理のない話だと思う。

「失礼ね。私の顔がそんなに怖かった」

 正面の顔が口を開く。

 怖くない。どちらかと言えば可愛い顔だと思う。声が出たのは驚いたから。

 この顔と声の主はちゃんと知っている。

 響子だ。そうだった、昨日から俺に取り憑いて、この部屋に来ているんだった。

 昨日も、というか今日も夜遅く、多分明け方位まで話をしていた。

「いや、寝ぼけていたから」

 言い訳をしておく。突然お前の顔を見て驚いたなんて言ったら気を悪くしてしまうだろう。

「いいの、起きなくて?」

 ああ、起きる。けど、ちょっと驚きが強すぎて心拍数が上がりすぎている、もう少し落ち着いてからじゃないと心臓に負担がかかってしまう。

「早くしないと遅刻しちゃうよ」

 指摘されて時計を見る。たしかにヤバイ。まだ余裕はあるけど、このままゆっくりとしていたら遅刻は免れない。

 慌てて登校の準備をする。

 その後ろを響子はついて周り、小言が飛んでくる。

 うるさいな。昨日の夜準備をしなかったのはお前と話していたからだろ。それに寝るのが遅くなったのも相手をしていたからだ。

 そう反論したくなったけど、今は遅刻をしないようにするのが先決。

 完璧とは言い難いけど、それでも一通りの支度を済ませて、いざ登校。

 響子の顔がなんだか楽しそうだった。

「機嫌が良さそうだな?」

「だって、高校への初登校なんだもん」

 朝日に負けないくらいに輝いた笑顔で、本当に嬉しそうに響子が言う。

 そっか。気が付いたら高校に憑いていたんだもんな。そしてそれ以来ずっと校内にいた。そしてようやく外に出られ、再び学校に行く。

 たしかに初登校だ。

 感慨深いものがあるのかもしれない。

 それならもう少し余裕をもって登校できれば良かったのだが、生憎ゆっくりしていたら遅刻してしまう。

「それじゃ行くぞ。遅刻したくないから少し飛ばすけど平気だよな」

「うん、平気だと思う。私は竜ちゃんから離れられないから」

 そうだった。一定以上の距離をあけられない。

 自転車のペダルに体重をかける。

 響子は俺に付いているのだから、お供にという表現が相応しいはずなのだけれども、心情的には俺が響子のお供になって、学校へと向かった。



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