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「お邪魔しまーす」
俺以外には誰にも見えない、聞こえないのにきちんと挨拶しながら響子は玄関から家へと入った。
「俺の部屋は階段を上ってすぐだから、先に行ってろ」
「いやー、一緒が良いな。それに色々と見たいし」
そう言うならまあ別にいいけど。台所なんか見ても別に面白くもなんともないだろ。
きれいに平らげて空になった弁当箱を置いて、階段を上り自分の部屋に。
「それじゃ、入れよ」
俺に続いて響子もドアから入室。
制服を脱いでベッドの上に適当に放り投げる。
「駄目だよ、ちゃんとしないと。皺になっちゃうよ」
そのままでも大丈夫だとは思うけど、いつまでも響子が俺の方を見ているから言うことを聞いてやるか。
ハンガーに制服をかける。ついでに部屋着というか楽なジャージに着替える。
「うん、よろしい。だけど、意外に部屋は片付いているよね。男の子の部屋ってもっと散らかっているものと思っていたけど」
本来なら指摘通りに散らかっていた。けど、ついこの前掃除したから一応は見える範囲は片付いている。
「男の部屋に入るのは初めてか?」
マンガの一コマのように右手を口元に充てて響子は考える。
「うーん。……記憶は定かじゃないけど、……多分初めてだと思う」
その言葉を聞いた瞬間ちょっとだけ優越感のようなものが。
「そんじゃまあ、男の部屋をゆっくり見学でもしろよ」
「お言葉に甘えて」
俺の言葉を聞いた途端、響子の体はベッドの下へ。
そんなところに潜り込んで何をしようというんだ。
しばらくして出てきたと思ったら、今度は机の中。そしてお次はタンスに、クローゼット。
本当に一体何をしているんだ、お前は?
「竜ちゃん、無いよ」
驚きと残念が混じったような声で響子が言う。
「何が無いんだ?」
何をそんなに残念がっているのか、そして何に驚いているのかさっぱり分からん。
「エッチな本」
「はあー?」
「だって、男の子は自分の部屋の中にエッチな本を隠し持っているんでしょ」
いつの時代の話だ。今どきはそんなものを持っている高校生男子なんかいないぞ。
お前が生きていた時代は紙の本が主流だけど、現在はデータの時代だ。
大切な画像と映像は全部パソコンまたはスマホの中。
だけど、これは絶対にお前には見つけられないはず。物に触れることができない響子がどうやってパソコンを操作できるのか。
そんなことは不可能。
「絶対に見つけてやるんだから」
見つからないことで闘志を燃やしたのか響子が俺に宣言をする。
無駄だ。お前には絶対に見つけられない。断言する。




