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雨ということもあってか、図書室には俺の想像以上の人が。
座る場所があるだろうか?
なければ借りて教室で読めばいいか。
ここに来るまでの間に読みたい本の題名は聞いていた。その本がありそうなコーナーへと向かうが、
「ああ、ちょっと待って。そこの本を取って」
突然響子が俺に指示を出す。
「えっとー、これか?」
「違う。その左の本」
言っていた作品と全然違うじゃないか。お前が読みたいのは別だろ。
「それも読んでみたかったんだよね」
勝手なことを言い出す。まあ、別にいいけど。
「じゃあ、これでいいんだな?」
「うーん、ちょっと開いてくれるかな」
煮え切らないような声。けどまあ、言うことを聞く。本を開く。
「……今一かな。話を聞いていた時は面白そうだったのに」
残念そうに言う。
「これは戻しておくぞ。さっきの言っていた本でいいんだよな」
「うーん、待ってね。考えるから」
その結果、響子は散々いろんな本を俺に取らせては戻すを繰り返す。
積年の想いがようやく成就するのだ、悩むのは理解できる。けど、いいかげん早く決めてくれ。慣れないことというか、一人でなら絶対に立ち入らない場所に来て、少々疲れてきた。
「早くしろ」
優柔不断で決断できない響子に思わず心の声が漏れ出てしまう。それも少し大きな音が。
「静かにして下さい」
漏れ出た声は思ったよりも大きかったらしい。図書委員と思わしきショートカットで赤い縁の眼鏡の女生徒に注意を受ける。
「竜ちゃん、叱られたー」
うるさい、お前のせいだぞ。
響子は早く本を選んでくれたのなら、こんなことにならなかったはずだ。
睨みつけるが、そんなものにはお構いなしに響子は図書室の中を気ままに飛び回り、本を物色し続けた。




