20
俺が産まれる以前の話。
興味はあるけど、こんな話で同級生と学校内で盛り上がるはずもない。
当時を生きた生き証人が。いや、死んで幽霊になっているからこの表記はおかしいけど、それでも直に聞ける。
叔父さん以外の情報源。
聞くだけ一方の響子との時間は徐々に会話へと変化していく。
思ったよりも、楽しい。
今では響子だけじゃなくて、俺自身も昼休みや放課後が来るのが待ち遠しい気分だ。
おかげで、一人で行動することが多くなり、本当は一人じゃないけど、悠に色々と小言を言われたけど、そんなのは全然気にならないくらいに面白い。
もっとも、病弱で部屋からほとんど出ないような生活を送っていたらしいから生の情報ではなく、多くはテレビや雑誌からのものらしいけど、それでも響子の言葉からは当時の匂いのようなものというか、ライブ感みたいなものを感じ取れた。
面白いし、楽しい。
しかし、こんな時間がずっと続くわけじゃない。
このところ天気に恵まれていたけど、とうとう雨が降った。
雨の中、屋根もない中庭で過ごすわけにはいかない。
俺自身は別に濡れても問題はないけど、響子の「風邪ひくからダメ」の一言で却下。
ならば、どこに行けばいいのだろうか?
あの時、雨が降ったら考えようと悠長なこと言っていたけど、いざとなったら思いつかない。面倒だけど、もう一度別校舎まで移動すべきか。
「……図書室に行きたいな」
思考を巡らせている俺の横で響子がぽつりと言った。
行きたい場所があるのなら、まあ別にいいけど……。
「図書室だと話せないぞ」
あまり人はいないと思う。利用したことないけど。だけど、話をするのにはすごく不適切な場所だと思う。小さく咳をしただけで睨まれるような気が。
「うん、いいよ。話せなくても」
「それじゃ、何のために行くんだよ?」
「読みたい本があるの」
「本くらい好きなだけ読んできたんじゃないのか」
創立以来この高校に存在している幽霊。時間はたっぷりとあったはずだから思う存分読書ができたはずなんじゃ。
「……触ることできないから……」
そうだった。忘れていた。見ているだけの生活。
「分かった。それじゃ行こう」
そう言うと俺は響子を連れて図書室へと向かった。




