思い出
食堂の探索の続きをしよう。
と、その前にこれは僕の思い出。
昔からあまり皆の輪の中に入りにいくような性格では無かった僕が、ビト(現在、唯一の友達)以外に友達がいた頃の話。
「クロエ君っ!! 早く早くー!!」
もう名前すらも思い出せない一人の女の子。その子が僕の人生を変えた人物だ。良い方向にも悪い方向にも。
「ちょっとまってよぉー、......ちゃん!!」
昔から運動が得意では無かった僕だが、その子は得意だったみたいでずっと振り回されていたのを覚えている。
それでも、人生においてその時が一番輝いていたのは事実だ。
その子は謎の力を持っていた。それは僕が欲してやまない『友達の輪を上手に作る力』だ。いつもその子の回りには人がいた。僕とは全くもって対称的な人物だった。
きっと僕は彼女を愛していたのだろう。
それ故に、人生は狂ってしまったのだろう。
彼女の事でプライバシーに反しない程度の事は全て知っているつもりだった。
なにより、あんなに元気だったのだ。まさか、『死んでしまう』なんて思うわけがない。
当時、ビトもいたかな。自分、ビト、彼女の三人で遊んでいた。
「ねぇ、ビト、クロエ。三人で来週の終わり頃にピクニックに行きましょ?」
「いいね! でも僕たち小さいからお母さんが許さないんじゃ......クロエはどう思う?」
「えっと......いいんじゃないかな? 暗くなる前に帰るし、その辺の公園にでも行くだけなら許してくれるよ」
意見はまとまり、ご飯は各自持ち寄り、場所は彼女の家の近くの公園に決まった。
その日の夜、まだ7日以上も先の事なのに楽しみ過ぎてあまり眠れなかった。
(仲の良いビトと......と一緒にピクニックだなんて楽しみ過ぎて眠れないよ!)
ワクワクしながら眠りについた。
ようやく今週、ピクニックが迫ったある日。
プルルルル、プルルルル。一通の電話がかかってきた。
「クロエ、お母さん忙しいから出てくれない? 怪しい人だったら切っていいからー」
僕は受話器をとった。
ガチャン、話が終わり電話を切る頃には足下に水溜まりができていた。
彼女が死んだ。小さい子どもにその話は少し酷だった。
「......っ、ひっく......」
いつまで泣いていただろう。用事を済ませ帰ってきたお母さんが驚いた顔をしていたのを覚えている。
「どうしたの!? 何があったの!?」
いつまでも喋らない僕、お母さんは履歴から電話をかけ彼女の死を告げた男に電話をかけた。
しばらくしてから、
「そう、そういう事だったのね......ごめんなさい、私は何もしてあげられ無くて」
泣きじゃくる僕を慰め続けてくれたのを覚えている。
彼女に最期にもう一度会いたかった、その姿を見たかった、皆でピクニックに行きたかった。
そしてなにより、
『彼女といつまでも隣にいて笑っていたかった』
彼女は僕の心に鎖をかけてしまった。
友達は作らない。ビトとだけ仲良くすればいい。
「友達を作ってしまうと、失うとき悲しすぎるじゃないか......だから僕はもう」
「あれ......? 僕ボーッとしてたのか......こんなことしてる場合じゃないな。探索しないと」
食堂の探索は続く。