現実での生活 初日を終えて
とりあえずはここで話が切れますね。
お昼休憩より戻ったカノンとシャルは午前同様、持ち場について働いていた。午後は読書や勉強に向かうお客が多く、その接客が中心だった。(時々高校生くらいの男性に絡まれ、勉強を教えるというアクシデントもあったが)そして夕日は沈んでいき、喫茶店の閉店時間になっていった。それでも今日は喫茶店内の客の途切れることはなかったのはやはりカノン目当てのお客が大きいのだろう。
閉店時間になり、全員黙々と喫茶店の片付け及び清掃を始める。カノンはユーリに指導を受けながら、方法を学んでいき短時間で終わることが出来た。
清掃後、ユーリから連絡事項を伝えられてロッカー室に着いたのは閉店後30分経った所だった。
女性側のロッカーを最初に開けたのはセレス。次にエーデル、カノン、シャルと続く。
セレスがエプロンを外しながら疲れを見せつつも笑顔で他の3人を見ながら「ふぅ~今日も1日お疲れ様だね。」と言った。
この言葉にすぐ反応したのはエーデルである。「皆、お疲れ様でした。特にカノン。初めての仕事だったけどどうでしたか?」とカノンに視線を向けた。
カノンは「最初はすごくドキドキしてお客様とうまく話せるのか心配したんですが、この喫茶店の雰囲気や皆さんのフォローのおかげで自分の中では少し自信が持てました。」
その内容に関しシャルが「カノンさん、、覚えるのが早いので、、お客様から好評だったと店長も言ってました。それに格好が似合って、、いたのでなおのことだったのでは。」
シャルの言葉一つ一つは今日の朝とあまり変わっていなかったが、一生懸命伝えようとしていることは話を聞いていた3人にはよく伝わっていた。もっとも休憩室での出来事を知らないセレスとエーデル、知っているカノンの反応の差は全く違うものではあったのだが。
ただセレスとエーデル二人に共通して思ったことは今日の休憩時間中にシャル自身を変える何かがあったことと、それを期待して休憩時間のスケジュールを組んだ自分達の作戦が成功したという点だった。
カノンには何か人を惹きつけるものがあると直感的に判断しての作戦だったのだが、少し予想を超えてシャルはカノンに懐いているようだ。そんなことを考えている間もカノンの好きなこととか連絡先の交換とか普段のシャルには無かった部分が出てきている。饒舌とまではいかないものの頑張って話しかけているという点は伝わっていた。
一方そのシャルのアプローチを受けてのカノンなのだが、当然昨日来たばかりの魔女が現実世界の文明機器を持っているはずもなく連絡については今度買い物に行くときに買うことを約束した。それ以外の質問は当たり障りのない回答を並べていった。そんなシャルとの会話は留まることを知らず、店長が戸締まりに来るまで続いた。
店先でシャルが「先輩方お疲れ様でした。明日もよろしくお願いします。」と頭を下げて帰っていった。
3人になったところでセレスとエーデルはカノンにねぎらいの言葉をかける。事情を聞くと彼女はある理由から少し人間不信に陥って少しの間家から出ない生活が続いた。それで打開策として学校に通わせるということをせず彼女の両親と知り合いだった店長のお店で働かせることによって少しでも心を開いてくれることを願ったそうだ。最初は厨房の中で皿洗いからやっていたそうなのだが、彼女へのファンがついてしまって
まだお客から注文はとれないがホールでの片付けの姿を見て、ファンは満足しているようだ。
そのような話を聞いて、カノンの中に疑問が出る。「なぜ自分には心のうちを明かしてくれたのだろうかと」カノンの固有魔法を使えば、その程度簡単に処理することはできるだろう。物質の元になる核の色の変化その変化は心境の変化も可能に出来る。
しかし、現実世界は魔法は使えない。魔法を発動させるための魔力がほぼ皆無だからなのである。
聖堂にある転移陣については魔法界で着ていた修道服に着替えないと発動させることはできないように式が組まれている。
それに今回は偶々良かっただけかもしれないとも思った。それだけ人の感情を動かすことには力が必要なのだから。
話が一段落ついたところで家に戻ってきた。少し遅い夕食を食べて、カノンは日課のスケッチブックに手を伸ばす。今日はシャルのことについてだと想いながら1枚のキャンバスに自分の心象を描いていった。
(魔法界 協会内)
カノンがキャンバスへと筆を走らせていた同時刻、彼女の担任であるエリスは初めての弟子が起こした奇跡感じて満足げに想いながら、自分の教授室で仕事をこなす。カノンの卒業課題の終着点を考えれば、この程度はまだ奇跡には程遠いものだとエリスは思う。(それでも初日に起こせるとは思ってはいなかったが)
そういう意味では弟子の規格外の成長に少し微笑んだ。
ここまで読んでくださりありがとうございました。最後のエリスの部分はエリスの特権で弟子がどういう状況に置かれているか感情だけ伝わるように仕込んであったということにしてください。(ちなみにこれも魔法ではありません)
コメント・感想など あったら今後も頑張れます。