賛美歌の響く教会
翌日、セレスはエーデルの作ってくれた朝食(ベーコンエッグ、トースト、サラダ、ヨーグルト、コーヒー)を食べながらカノンに唐突な質問をしてきた。
「そういえばカノンはあちらに居た時、礼拝に行っていたの?」
その問いかけにカノンは布巾で口を隠しながら頷いた。魔法界といっても全ての現象が魔法によって起こるなんて思われていない。ゆえに中には現実世界の信じられてきた「神」という概念を崇拝して週に1度は礼拝に行くという者も出ている。
「はい、小さい頃から礼拝には参加していました。こちらにも教会はあると聞いていますが礼拝は行っているのですか?」
カノンはエーデルに問いを返す。するとエーデルではなくセレスがその疑問を答えてくれた。
「フレイブルグは様々は建築物の残る場所で教会も数多くあるよ。私やエーデルも週に1度礼拝に行っているんだ。2日後に礼拝があるんだけど一緒に行く?」
「ええ。ぜひ。行きたいです。」
カノンはちょっぴり心躍らせながら、朝食の続きを食べるのであった。
朝食が食べ終わると着替えをすませた後今日も喫茶店に向かう。喫茶店のシフトは週5なのだが礼拝が重なる日は午前と午後で交互に教会へと向かう。
その喫茶店の休憩時間 エーデルにどういう教会で礼拝するのか教えて貰った。ユグド・ラルフ教会はフレイベルグの中でも一番古い教会とされていて様々な様式を用いて作られたこじんまりとした教会なのだそうだ。
今日はその教会で今度の礼拝で歌われる賛美歌の練習が行われるらしく、信徒のユーリは少し早めにお店を閉めて見学させて貰うそうだ。カノンも興味があったのでユーリにお願いした所邪魔にならないようにするという条件の下見学させて貰えるようになった。
ともあれ、喫茶店の片付けを済ませて教会に向かう。教会までの道のりは喫茶店から10分ほど。市街地からは少し外れの丘の上にあった。丁度夕暮れ時ともあり沈みゆく太陽と教会はとても絵になる光景だった。
教会に近づくとピアノやギターなどの楽器の音と、複数の男女の声が合わさり相乗効果を引き起こし、カノンの身体に震えが生じた。その状態を見て、ユーリは声をかける。
「カノンさん、感じますか?まだ中に入っていないのによほど感度が高いんですね。教会内には震えが収まってからでもいいですがどうしますか?」
ユーリはカノンの音楽への感度の高さに驚きながらも、心配して声をかけ、カノンはここまで素晴らしい音楽聴いたことがなくうまく動けなかったことを恥じた。その後すぐに大丈夫ですと言い、ユーリとともに教会内に入った。
教会内で練習していたのは楽器の演奏者含め10名程。カノン達が入ってきても練習は続く。丁度曲はソロパートのソプラノの方に移っていた。
カノンはそのソプラノの奏者に驚いた。それは曲を知らずとも聞いた人の心をつかんで離さない程に圧倒的でその中に暖かみや慈愛を感じる、まさに神の声というのがあるのならこのことだろうといわんばかりに。
カノンがその余韻に耽っていた所に教会の牧師さんが後ろから現れ、ユーリとカノンに小声で挨拶をした。
「こんばんは。ユーリさん。そちらの方はカノンさんですね。ユーリさんからお話は聞いています。私はここの牧師を務めていますクリスと申します。それでいかがでしょうか?我が教会の賛美歌は?気に入っていただけたでしょうか?」
「とても素晴らしいですね。楽器と歌声の合わさりもいいですが、特にそれぞれ4パートのソロ部分。心を引き込むような感じがしました。」
「それは良かったです。うちの教会のソプラノのソロは替えが利かない逸材だと思っています。休憩に入ったようですね。私はこれで。」
牧師さんがメンバーの元に向かった方から一人の少女がこちらに向かってきた。髪は銀色のロングで眼鏡をかけている。服装は白い色のワンピースにヒール、首元には十字架をつけている。手にはさっきまで歌っていた曲の楽譜が握られている。
彼女の第一声は「ユーリさん、カノンさんに明かすのはまだ、、先のはずじゃないですか?なんで連れてきているの?」
これでその彼女がシャルだということがわかった。
「バレてしまっては致し方ありません。1年前からここの牧師さんに気に入られてソプラノのソロをやらせて貰っています。私の家も礼拝には毎週参加しているので牧師さんとは顔なじみだったのです。」
シャルは顔を赤らめてカノンに聞いた。
「どうでしたか?私の声?あんまり自分では自信が持てないのですが。」
「そんなことはないよ。心が洗われるくらいきれいだった。あんな声聞いたこと無かったもの」
その回答にますます顔が赤くなっていった。「カノンさんはずるいです」と小声で呟いた。
ユーリが次の礼拝日にカノンが来ることを伝えるとシャルは「頑張らなきゃ」とまたしてもカノンが聞こえない程度の小声で決意を新たにするのであった。
その後もカノンは練習を見学をしてユーリ、牧師、シャルにお礼を言って家に戻っていった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。さてこの物語も10話まで続けられました。最初はここまで続くとは正直思っていなかったのですが。ここまででカノンが経験したことで課題が何か推測できる方がいるかもしれません(いない方がいいのですが)今後も直接的な言葉は避けつつヒントを出して行こうと思っております。
P.S 当たり前のものがあると再認識するとあることに安堵し尊く感じますよね。