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僕の嫁は闇堕ちヒロイン

作者: コンテナ店子

 人はどうやって個人を定義しているのだろう。

 見た目だろうか。最後にその人と会った時と同じ見た目をしていたら同一人物と定義するのだろうか。

 でも、多くの恋愛ストーリーでは、大事なのは見た目じゃないと言うし、数年ぶりの再会では見た目は違ってくる。

 では性格なのか。それも何となく違う気がする。その人物の性格という物はあいまいなこの世界の中でも特に群を抜いてあいまいな存在だ。目に見ることが出来ず、それを持っている本人ですら認識することが出来ない。

 そもそも、人間は自分という物を理解しているようで理解しにくい。

 とすると、自分ですら、自分が自分なのかわからなくなる時があるのかもしれない。


 朝起きて、学校に行き、家に帰って。そんななんでもない毎日。夏休みが開けてもまだ暑さが残る秋口のこの頃。

最新技術などが取り付けられているわけでもなく、人数が多いマンモス高なわけでもなく、自由な校風が売りなわけでもなく、この学校の特徴と言えば、この周辺では学力が一番高い共学校というくらいの学校。そんなところの二年生の紅林(くればやし)優孝(ゆたか)。それが僕。昔から何かで表彰されたりとか、特別何かが得意と言うわけでもないし、クラスのだれからもから慕われてると言うわけでもない。

 クラスのみんなに僕がどう映っているかはわからないが、僕自身が見る僕とそれ以外の人が見る僕とは全く違っていて、それはまるで左右が反転して見える鏡に映った物とそうでない物の様。

全く違っているのかもしれないが、少なくとも鏡に映るそれを見ているのはまるで量産されるそれなはずだ。

「なぁ、これ見てくれよ紅林」

 スマホをこっちに渡しながら、隣の席の男子が話しかけてくる。

放課後になってクラスにも人が減り始めたが、まだ日が傾く時間ではないこの時間はまだ外は暑いので、エアコンが効かない廊下にすぐに出る気にもなれずに僕は、帰り支度を少しゆっくりめにしていた。

「何これ」

「最近流行ってるらしいんだよな。なんかうちの妹がこういうのハマっちゃってさぁ」

 画面にはオカルト情報を専門にするまとめブログの記事が表示され、その記事のタイトルには、都内某所で不可解な殺人事件が起こったことが書かれている。

 まとめブログはそれなりに見たりするが、こういうことにとりわけ興味があるわけではないので、彼も僕には適当に聞いてみただけなのだろう。

 ここ最近、不可解な事件が増えているのは事実らしくいつだったかは忘れてしまったが、そんな統計データを夕方のニュースの特集で見た気がする。

 それがオカルトによるものだとこの記事では言っているが、そんな物あるわけがない。あってはいけないのだ。

「ふーん。魔女かぁ……」

「そうなんだよ。これみたいに妹も事件を魔女の仕業だ! とか言ってよくわかんない分厚い本とか買ったりなんだりしてるんだよなぁ」

 聞き慣れない。厳密にはゲームとかで聞いたりするのでそうではないのだが、現実味に欠けた言葉に僕は首をかしげる。

過去には存在していると信じられていたらしい魔法という存在だが、今では現実から淘汰されている。かつては存在していなくても人々に語られ、文献などに書かれることで現実に干渉できるほどの力を手に入れてのかもしれないが、今ではそんな力は大きく削られ、ほんの一部の人にしか力を得ていない。

「俺もよくわかんねーけど。なんか昔の人が書いた本に書いてある悪魔を召喚したなら事件にも説明がつくとか言ってたぜ」

「優孝くん。お待たせ。何してるの?」

 後ろからした僕を呼ぶ女の子の声。

外が暑いという理由で外に出なかったのもあるが、

いつものことなので、特に何も考えずに僕は振り返るのだった。

そこには見慣れた黒のショートポニーテールを持つ少女がいる。制服を真面目に着こなし、数多くの女子がわざと短くして校則をやぶっている中、彼女は校則を守る長めのスカートをしているのが有名な彼女は、どんな男子に対しても優しいことで、ひそかに何人かの男子の心を奪っているらしい。体格に関しては、細身ですらっとしている。

「ゆいな」

「あっ、樽見さん」

「こんにちは」

 さっきまで僕に暇そうに話してたくせに。彼の狙いはこれだったようだ。僕がずっと小さいことから一緒にいるこの少女は樽見ゆいな。子供のころから変わらず仲がいい僕らは、お互いがお互いの生きている証拠のようなものだ。

彼女が少し遠慮がちに微笑みかけると、男子は顔を赤くしてデレデレしている。

 そんな姿の彼をそっと僕は目の焦点から外す。恋や愛は苦手なのだ。

「この前起こった殺人事件の話してたんだよ」

「あれ、隣町で起きたんだよね。怖いよね」

 事件が起こった当初は、この学校でも注意喚起がなされ、学生たちも不安になったのだが、あれから数週間経った今ではその面影は消えつつある。しかし、周りがそうでもゆいなはその話題が出るたびに今でも悲しそうな顔をする。

 初めて会った幼稚園の頃から変わらない彼女の、誰かも知らない人を悲しめる優しい性格は僕も好きだし、ずっとこのままでいて欲しいが、ゆいなの悲しい顔は見たくない。僕は話題を変える。

「それより、今日のお弁当、とってもおいしかった。ありがと」

「もう、そんなに褒めても何も出てこないよ」

「いいよ。何も出てこなくても。それより、大変じゃない? いつも冷食も使わないで」

 少し恥ずかしい話であるが、学校がある日の僕のお昼ご飯はゆいなが作ってくれるお弁当だ。昔は僕がコンビニなどで買ったものにしていたのだが、それでは栄養に偏りが出てしまうと彼女に言われ、代わりに作ってくると言われてしまったのだ。

「確かにちょっと大変だけど、優孝くんの体の方が心配だから。それに、食べてくれた人においしいって言ってもらえるととってもうれしいの」

「樽見さんはほんと優しいなぁ。紅林にはもったいないぜ」

「優しいなんて、私はただやりたいからやってるだけだよ」

「ほんと、お前ら仲いいんだな。もう付き合っちゃえよ」

「えっ、つきあっ……」

 ゆいなの顔の赤みが強さを増す。

今まで恋だのなんだのに関ってこなかったゆいなはこういうことに耐性がないのだ。

男女の交際で浮足立つのはどの若者の醍醐味とも言える。実際映画などでもよく恋愛描写を挿入されているのがその証拠だ。でも、ゆいなと僕は、恋愛という物から程遠い存在で、なぜなら僕はまだそんなことをするには早いと思っているからだ。

「でも、私……、その、結婚とかは……高校生にはまだ早いと思うんだけど……」

 結婚という言葉を言うのが恥ずかしかったのか、ゆいなはいつもより声が小さくなる。

純粋な女の子とはこういう子を言うんだろう。確かに僕が親友でいるにはもったいないのかもしれない。

もったいないのは事実でも、僕は彼女の親友という立場を失いたくない。なぜなら、彼女は僕にとっては子どものころからずっと一緒にいる親友。その友好関係を壊したくなくて。

僕の事を彼女はほとんど知っているし、逆に彼女のことをほとんど知っているつもりな僕は、この親友と一緒にいる時間が他のどんな時より楽しくて、気を張らずにいられる。

クラスが違う時は何度かあったが、子どものころからずっと一緒のそれはほかの誰でも替えが効かない。

「はぁ、ゆいなはそうやってすぐ本気にする……」

「えぇ、でも、そういう言い方は悪いよ」

「あぁいうのはただの冗談だから。ほら、もう帰ろ」

 純粋で真面目。こんなしょうもない冗談も本気にしちゃうゆうなが僕は親友として好きだ。これからも、ずっとこのまま何も変わらずにいられればいい。今日と同じ日が明日も続くことを僕は祈っている。


 僕とゆいなは隣同士の家に住んでいる。その縁で僕らは幼稚園の時初めて知り合った。それからというもの、たまたま外で会ったり、近所の店で会ったりして。特に、帰り道では、約束していなくても自然と会い、どちらからでも決めているわけでもなく、一緒に帰っていて。そうこうしている間に、だんだん男女の友情が離れて行く小学校高学年になってもずっと僕らは親友で居続けた。

 そんな、子供のころから変わらない僕ら。特にゆいなは子供の頃からずっとこんな性格だった。だから僕らはいま間違いなく隣同士にいる。肩を並べて、同じ物を同じ目線で見ているってわかる。僕の知る、樽見ゆいなという少女はここにいるんだと確信できる。逆もそうだ。ゆいながここにいるから、僕もここにいるんだとはっきりと言える。僕とゆいなは一蓮托生なのだ。

「あのね、優孝くん。さっきの話だけど……」

 夕暮れの丘の上にある学校から伸びる、同じ制服を着る生徒も多く見える下り坂。特に話すこともなく無言で歩いていた僕らの静寂は、ゆいなの、珍しく、話す相手から目をそらした会話で打ち破られた。

「さっきの話?」

「うん。その……」

 言いにくい話なのだろう。もじもじして話を区切っている。僕は急いでいるわけでもないので、少し歩く足の速度を落とした。彼女をせかさないように、彼女のペースに合わせるように。

「その、ね。結婚の話……」

 結婚。僕は今までそんなこと考えたこともない。将来そのうちするんだろうなとか、漠然と将来にはしなきゃいけないんだとよく言われているけれど、具体的にどんな人と結婚するとかはおろか、そもそも僕は好みのタイプとかも考えたこともない。

 お互いに興味がなかったので、僕らの間でこういう話題が出てくることは珍しい。

 僕はもじもじするゆいなを少しでも気楽にさせるために、いつもと変わらないような、返事をしておいた。

「あの、こういうこと、聞きにくいんだけど……」

「聞きにくい?」

「その、ね? あの……。優孝くんは、好きな人とかって、いたり、するの?」

 言葉に詰まる。それと同時に頭も真っ白になりかけたので、慌てて思考を初める。

 少なくとも僕はこのことを聞くということはあなたを好きだと言っているものだと思っている。顔を真っ赤にして下を向きながらこっちをちらちら見ているゆいながどういう意図を持ってこういうことを言っているのかはわからないが、彼女に嘘を言いたくない。

 なぜなら僕にとって彼女は半身の様な物だからだ。僕という一個人を定義する上で、彼女という存在は欠かせない。なぜなら、僕が僕自身であると自分以外から定義される時、僕と今まで苦楽を共にし続けて来たこの樽見ゆいなという存在が欠かせない間違いないことだからだ。

「優孝くん、私以外の女の事と一緒にいたりするとこ、あんまり見ないけど……。でも、なんか気になっちゃって……」

「その通りだよ。僕はゆいな以外の女性と関る機会なんて全然なくて、色恋沙汰なんてどこへやらって感じ」

「そっか……。そうなんだ……」

 ゆいなが胸に両手を当てながら、息の音が出そうなほどにほっとしているように僕は見えた。それはあまりにも分かりやすすぎる反応で、僕に思い人がいられると困るらしい。

僕自身その反応を馬鹿には出来ない。なぜなら、僕も同じだから。ゆいなにもし恋人ができたら、僕はゆいなと一緒にいられる時間が減ってしまうだろう。あまり仲良くしすぎてしまうと、ゆいなの彼氏さんにも申し訳ない。

 きっとゆいなも同じ感情を持っているからこんな反応をしたのだろう。ゆいなの不安が少しでも減ってくれたのなら僕も安心する。

「で、ゆいなは? ゆいなは好きな人とか、いるの?」

「えっ、私⁉」

 ゆいなはびっくりして、またしても飛び跳ねてしまいそうなほどに驚く。とはいっても、顔や声に出ないようには努力しているが、僕も気が気じゃない。優しい少女は実は彼氏と一緒にいたいと言うのに、僕を傷つけないように、こうして一緒にいてくれるのだとしたら……

「いっ、いないよ! 好きな人なんて、一人もいないよ!」

 明らかに慌てた反応。もしかしたら本当にいるのかもしれない。

「ホントに?」

「本当だよ! ほんとにいないんだから!」

 ゆいなの強い否定によって、その時はいったん沈黙が訪れた。

 外が少し暗くなり始めていることもあって、僕が知りたいゆいなの今の姿はよく見えない。

「……その、わかっちゃうのかな。ほんとは」

「えっ、それって……」

「あのね、これは親友の優孝くんにだから話せる話だから、迷惑だったら言わないけど……」

 ゆいなが何を言いたいのかなど、わざわざ聞かなくてもわかる。ほんとは嫌だけど、これも彼女の意思。

 彼女が恋愛という物に手を出してしまうと言う事は、僕の元から遠く離れて行くような気がして。ほんとはまだそんなこと止めて欲しいと言いたいけど、そんなこと言えるわけない。だって、それは僕の半身ともいえる存在であるゆいなの感情なのだから。

「迷惑じゃないよ。もし、よければ、聞かせてほしいな」

 震える喉でなんとか声を絞り出した。出来る限り当たり障りのないように。ゆいなに隠すのはとても難しいのかもしれないけれど、僕の心情を悟られてはいけない。

「実はね、私、好きな人がいるの」

「好きな人?」

「うん。向こうがどう思ってるかとかはわからないけど……。でもね私はその人と一緒にいると、すごい安心出来て、たぶんこれが好きって感情なのかなって思うの」

「向こうがどう思ってるかわからないってことは」

「っつ、付き合ってるとかじゃないの! 私が告白したら相手にも迷惑だし!」

 ゆいなは両手を横に振り、違うことをジェスチャーでも表現する。

「それに……私、顔とか全然可愛くないし……それに体も女の子らしくないし……」

歩いている間に、光の当たり方が変わったのか、今はゆいなの顔がよく見えた。彼女の柔らかな顔立ち。僕を見てくれている瞳。僕がいつも見ている彼女がそこにいた。

 彼女は僕のそばからまだ離れていないということがそれだけでわかった。

「でも、少し意外だよ。ゆいなはそういう事に興味はないと思ってた」

「私もちょっと前まではそうだったんだけど……。気付いたらって感じだったの。優孝くんは、ホントに全然興味ないの?」

「僕は……」

 答えに詰まる。僕と一蓮托生の存在である彼女が、興味があると言っているというのに、本当にないのかと疑問になってしまった。

 結局僕なんてこんなものだ。僕という存在を構成する数々の存在の中でも、彼女の影響はとても大きく、それが今までの僕の中で定義されていた彼女と異変が起きてしまうと、バグが入り込んだパソコンのように機能がくるってしまう。

「ほんとに興味ないんだ。そういうのには」

だが、バグが入り込めば、パソコンにはバグを駆除する機能が働く。


僕という一個体が形成されていく上で、ゆいなの影響は間違いなく大きく、その逆もそうであるはずだ。お互いの人生という名の時計を動かすため、僕らという歯車は、互いが回りやすいように自然と自らを作り上げてきた。

くるくるくるくると、同じ時計板の上を永遠と回り続ける時計のように、僕らは同じような当たり前の日常を生きてきた。

しかし、時計という物は日に日に時間がずれて行くもの。互いに同じ針を動かしていたと思われた歯車は、新たな相棒を探すため、その場を離れ、そして新たなパーツが見つからない時計は……

時計としての役割を終える。

 

 

部屋を騒がす機械音で僕は目を覚ました。あの後、ゆいなとは家に着いたので別れたのだが、家に着いた後ベッドで寝っ転がった僕は、気付いたら寝てしまっていたのだ。兄弟もいないので、僕は一人で自室にいる。勉強机とベッドだけの白を基調としたその部屋で僕はいつも通り落ち着くこともできるが、今日の僕は思いにふけっていた。

 もちろん考えていたことは、先ほどゆいなに言われたこと。僕に好きな人がいるのだろうか。いるとはとても思えない。でも、僕と同じ存在であるゆいなにいるのに僕にはいないのだろうか。

 もやもやしながらも、結局いい答えは見つかることもなく、結果的に、夕方のニュースを見つめていながら眠ってしまったのだ。

しかも、なんと運の悪いことに、起きたその瞬間にやっているニュースは、隣のさらに隣の町でまた不可解な犯罪が発生したことを告げている。一度ソファーに寝転がってしまった僕は、どうにも動く気になれないが、僕を起こした音の主であるスマートフォンを無視するわけにもいかず、拾って答える。

「はい、もしもし」

「もしもし、優孝くん?」

 電話をしてきたのは、ゆいなのお母さんであることが声でわかる。寝起きだったので、発信元を確認せずに出てしまった。声が普段に比べて、焦っているように感じられるその声に、僕は心配になり、あいさつもそこそこに、何かあったのか聞いてみる。

「実は、今日の夕飯のお使いをゆいなにお願いしたんだけど、もう何時間も帰ってこなくて、電話にも中々でないし、何かあったのかって思っちゃって……」

 恐らくゆいなが行ったと思われる近所のお店までここから歩いて十分もかからない。それに真面目な性格のゆいなが遅くなるというのに誰にも連絡をしないと言うのもおかしな話だ。

 と、一瞬思ったが、距離の話はともかく、連絡をするゆいなとは、つまり僕の思うゆいなとは果たして本当のゆいなで合っているのだろうか。

 そこで自信がなくなってしまい、口を閉ざす。

「優孝くん? どうしたの?」

「いっ、いえ、何でもないです。すみません」

 落ち着くんだ。一番心配なのは僕じゃなくて、彼女の母親なはずだし、彼女が異常だと言う以上、これは異常なんだ。僕の考えは何も間違っていない。

「じゃあ、僕、少し外を探してみます」

 今更になって確認すると、時刻は夜の九時を回っている。外も真っ暗で月明かりと街灯が頼りの状態。年頃の女の子が外を出歩くには少々危険なはずだ。 がんばって夜遅くまで働いてる両親に心配かけないようにこっちから連絡しておくねとおばさんに言われた後に電話を切り、僕はスマートフォンと財布だけ持って急いで外へ出た。


 早速お店までの道のりを歩いてみた僕。ゆいなのお母さんは、いつゆいながいつ帰って来てもいいようにと家で待っているので今は一人で探していた。

 普段夜中の出歩きは全くしないため、夜の闇が僕の足を遅れさせる。夜は僕らとは違う生き物が生きる時間なのだ。

 先ほどからゆいなの連絡先に数分おきに連絡しているが、残念ながらお決まり文句であるおかけになった電話はという声がするだけである。

 もし彼女に何かがあったら僕はどうするんだろう。例えば彼女が悪い人に捕まって殺されたりしたら……。親友であるゆいながいない生活。僕は耐えられるのだろうか。

ゆいなと親友と呼べるような日々を手に入れてからもう何年もたち、そうでない年数の倍は時間が経過している。そんな、今までいて当たり前だと思っていた親友。いるのが当たり前な、彼女が突然いなくなる。

彼女がいなくなったら、僕は何になる? 仕事が忙しい両親の子どもなわけがあるか。ゆいなの親友じゃない僕は何者なんだ。

恐怖を感じ始めた僕は、現実から逃れるように、必死で彼女の居る場所を求め走り続けた。

 そうこうしながら、概ねゆいなが行きそうな場所を探してしまった僕は、逆にゆいながいかなそうな暗く街灯がなく人が寄り付かないような裏路地を中心に探し出した。先ほどのニュースで言っていたようにまた近くの町で不可解な事件が起こってしまったせいでこういう場所には人がいない。だが、逆に人がいないということが今まで道行く人にゆいなの写真を見せても誰も見た人がいないことの説明にもなれる。

 予想が的中したのか、僕はめぼしい物を発見できる。ほんとはこんなもの発見したくないのだが。

「これは……」

 それは壊れた携帯電話。間違いない。ゆいなのものだ。彼女が付けているストラップがその証拠である。僕が彼女の手がかりとして使おうとしたそれは、僕らを引き裂くように無残に撃ち伏せられていた。

 現代の生活において携帯電話は欠かせない物。しかもそれを真面目なゆいなが何の理由もなく落とすとは考えにくい。じゃあなんで……

 そう考えようとしたその瞬間、一度僕は思考をやめる。その理由は一つ。その理由を確信のものへと変えるため、僕は背後を振り返った。

「あの……。僕に何か用ですか……?」

 気のせいであって欲しかった。でも、僕の目の前にはこっちに視線を向ける一人の男性が立っている。 彼は何者なのかはわからないが、こちらの声に答えない彼を見て、僕の頭にあることがよぎる。

 近隣の町で多発している不可解な事件。彼がその犯人なのだろうか。真実はわからないが、こちらが声をかけても、相手は何も反応しない。

街灯もない暗い夜道では、よく見えないが、その人はそこまで体格がいいわけでもないようだ。だが、僕は、格闘術はおろかスポーツなどの経験も何もないので、彼から逃げることも戦うことも難しいかもしれない。

もう一度念のため声をかけてみるが、彼は無視を決め込むだけであった。

「用がないんでしたら、僕、行きますんで……」

 そう言って僕はそっと歩いて立ち去ろうとする。この暗い場所でまったく話してくれない彼は正直言って気味が悪いので、関わりたくない。はやくこの場を立ち去りたい。その一心で僕は足を動かした。

 ではない。動かそうとした。だが、その思いに反した事実がこの場で起こる。

そう。体が動かないのだ。体を縛られたり、強い力で引かれる感覚はない。にもかかわらず、僕の体は、例えるのであればまるで金縛りにでもかかったかのように、身動きが取れなくなってしまう。

こんな経験今まで一度もない。そもそも金縛りだとしても、ああいう物は寝ている間にかかる物なのではないだろうか。こういった道端を歩いている時にかかる物ではないはず。

何が起こっているのか何一つ理解できず、僕はその状況に対して、混乱することしか出来ず、そのまま気付けば頭に強い振動を感じ、気を失ってしまった。


ひどい頭痛。それが目を覚ました僕が最初に感じた印象であった。まるで頭痛に叩き起こされたかのような気分である。それもそのはず。あんなおかしな夢を見た後だ。

金縛りだかなんだか知らないが、そんな物がこの世にあってもらっては困る。なぜなら、未知なる存在は恐ろしいからだ。考えてみれば当然の話だが、こけしを買いに行ったら腕のない人の死体が現れたりしたら、それらは害が一切ないとしても、恐怖そのものである。

人はみな自分の知らない物、自分の中で勝手に定義づけた常識という枠の外の存在に恐れを抱いてしまうものなのだ。

 それはそうと、今の僕はよく見ると自分の部屋ではない誰もいない場所にいる。ベッドだけが置かれ、他に目に付く物と言えば、カーテンのない窓くらいなボロボロの部屋である。それは、木の床が僕がベッドから降りた瞬間抜けてしまわないか心配なほどに。

「ここは……」

「あっ、目が覚めたんだ?」

 アニメに出てくるような女の子が出す甘えた声。それがその声の印象だった。しかし、そんなことは何の問題でもない。そもそも先ほどその声をした方を見た時には、そこには誰もいなかったはずだ。いったいそこには誰が……

「ねぇねぇ、大丈夫。けがない?」

「あっ、はい。大丈夫です」

 黒のミニドレスを着て、内巻きの姫カットを持った少女がそこにはいた。その格好はまるで華やかなパーティにでも出かけるかのような恰好で、こんな所にはふさわしくないと言える。

 ……異常なまでの胸の露出となまめかしい太ももを除けばの話だが。

 まずは胸のほうだが、流石に大事なところは隠れているものの、その上半分の弧と双丘の谷はほとんどが見えてしまっている。しかもその大きな胸は、その貧弱なドレスの布を突き破ろうと、若干肉がはみ出してしまっている。

そして下はと言えば、少しでも動いてしまえば中身が見えてしまいそうなというよりも、そもそも履いていることに意味があるのかすらも疑問に思えてしまうほどに短いスカートから伸びる真っ白な太ももから先は、ニーソックスに包まれていて、比較的安心に思えるが、その一方でそのニーソックスによって太ももが強調されてしまっている。

はっきり言ってしまえば、こんな露出だらけな恰好は、女性とのかかわりが少ない僕には目に毒であり、申し訳ないが、視界から逸らさざるを得ない。

「よかったぁ。あいつは私がぼこぼこにしといたから。もう安心して」

 あいつとは、恐らく僕に何かしようとしてきたあの男の事だろう。夢じゃなかったのか。あれは一体なんだったんだろう。それに特に鍛えている様には見えない真っ白な細い体の少女がどうやってあの男をぼこぼこにしたんだろう。

「あの、ありがとうございました。ところで、あなたは……?」

「もぅ、忘れちゃったの?」

 彼女と僕は知り合いのようだ。少なくても彼女はそう思っている。一応僕は記憶をたどってみるが、こんな衣装を着るような少女と知り合った覚えはない。

「えっと、僕の方は覚えがないのですけど……」

「そんなぁ、もっとよく見て」

 少女は僕から少し離れると、そのまま両腕を広げ、くるんと回ろうとする。って、そんなことをしたら……

 と僕がとめようとしたそれを無視して彼女は一回転。彼女の、あまり意味をなしていなかったものの、最後の一線だけは守っていたスカートがふわりとし、大切な物があらわになる。

「どう? 全身見てたら、全部思い出してくれた?」

 見えていなかった。なんと、どういう仕組みかまったくわからないが、彼女のスカートは確かにふわっとはしたのだが、見えたのは最初から丸出しだった背中だけで、間違いなく見えていなかった。

 いったいどういう事なのだろう。

「もしかして、私の体に見惚れちゃってるの? いいよぉ。好きなだけ見てぇ」

「ちっ、違います!」

 モデルがカメラの前でするようなポーズを僕の前で披露してくるこの少女。そもそもこの子は僕にここまで親し気にしてくるということは、もしかしたら、僕が忘れているだけで、ほんとうに知り合いだったのかもしれない。そうだとしたら、今の僕の態度は非常に申し訳ない。

「遠慮しないで、好きなだけ見ていいんだよ? この体はぁ、頭の先から足の爪までぜぇんぶ優孝くんのなんだからぁ」

「僕の名前を知って……」

 この少女が突然現れたこと、そしてスカートの動きが不可解であることと、僕はこの少女が何者なのかわからず、正直恐怖すらも覚える。それは、彼女自身に嫌悪感があるわけではないのだが、僕の目の前から消えて欲しいとまで覚えるほどにであった。

 特に命に別状があると言う問題でもないのだが、異常な存在というものはそれだけで恐怖の対象となる。

驚く僕を尻目に彼女は僕の座るベッドの上に登り、四つん這いになって僕のそばまで来た。そのポーズとこちらからの角度のせいで、少女の胸元が非常に強調されてしまっており、僕は慌てて目を背ける。

「ちょっ、ちょっと、何をして」

「だぁめ。ずっと私の事見ててよ」

 少女が僕の顔を両手で押さえて、無理やり自分の方を向かせ、そして僕の現実を捉えることを拒否する視線に僕を見つめ続ける目線を合わせた。現実と幻が交わり合うかのようなその行為。物語の登場人物が持っているような琥珀色の彼女の瞳と僕の黒い瞳がぶつかり合う。

 その時、僕はある可能性を考えた。それをそのまま口にしてみる。

「もしかして、ゆいな……?」

「そうでーす! 私、樽見ゆいなですっ!」

 目の色は元々が黒のゆいなに比べてかなり違うが、目の前で頬に人差し指を当て、ウインクするその少女の、口や鼻や耳の形はゆいなと全く同じだ。

しかしあんな露出が激しすぎる服をゆいなは着ないし、仮に着たとしても恥ずかしくて人前には出てこれないはずだ。それに性格も全くの別人で、正直この格好でゆいなのふりをしているのであれば、やる気があるのか逆に聞きたいレベルである。

 正体がわかったにしても、正直僕の疑問は余計に増えたレベルであった。ほんとのことを言うと、この答えは最悪だ。

「ねぇ、ねぇどう? 優孝くん? 私ね、優孝くんのために可愛くしたんだよ?」

 肩を左右に振ったりスカートの裾を持ち上げたりして僕に彼女はその姿を披露してくれる。

 どう答えたものだろうか。決して彼女は世間一般の部類の中では可愛い部類に入らないわけではない。しかし、そんなこと以上に、この少女が本当にゆいななのか、その方が気がかりである。目の前にいる幻想を描いた本のような物。そしてその中にどんな物語がつまっているのか。

「君は、本当にゆいななの?」

「そうだよ」

 少女は何を当たり前のことをとでも言いたいようかの表情をする。

何を期待していたんだ。落ち着いて考えればこう言ってくるに決まっている。仮になりすましだとしても、ゆいなになろうとしている人が本人じゃないなんて言うわけがない。

「そんなことより、どう?私のこの格好? かわいい? ドキドキしない?」

 ウィンクしながら頭と腰に手を当てたり、頭の上で手を組んだりと少女はセクシーポーズを僕に見せつけてくる。

 彼女は僕にすごく興味津々のようだが、逆に僕の方にとっての彼女は不審な存在でしかなかった。彼女は僕にとって何か、それは……

 悪だ。少なくても僕からしたら害そのものでしかない。こんなのがゆいななわけがない。それに何より、僕が拒み続けるそれを押し付けてくる彼女を受け入れたくない。

「あの、助けてくたのはありがとうございました。でも、僕もう行くんで……」

「えぇ、そんなぁ、私悲しいなぁ。優孝くんがいないとゆいなは壊れちゃうのぉ」

 彼女に対して恐れという感情を抱いていたのは間違いない。だが、それ以上に僕はある感情を彼女に抱いていた。その気持ちはだんだん積もっていって、今限界にまで達しようとしている。

それをつい、僕は言葉にしてしまった。

「いい加減にしてください! ゆいなは僕にとって大切な親友なんです! 僕とゆいながあなたにとってどんな関係か知らないけど、ゆいなを馬鹿にしたような態度をこれ以上続けるなら怒りますよ!」

 その時の感情に任せて大声で捲し上げたため、僕の体は肩で息を始める。だが、僕の半身とも言えるゆいなは少なくても僕が知る限りではこんな性格であっていいわけがない。彼女のためにもという意思を持ってこういった行動を出来ることを、少し誇りに感じていた。

 だが、そんな僕の中で渦巻いていた様々な感情は一瞬にして振り払われることになる。

「あは、あはは、あっははははは!」

 疲労感によって下を見ていた僕はその大声に驚いて発生源に目を向ける。確かに、僕の見た目は、体格がいいわけでもないので、あまり人を動揺させるには向いていない見た目をしていることは自覚している。しかし、そもそも彼女の笑いは、おかしさから出てくる笑いといった感じではない。

 その普通男性でもあまりしないような周りを一切気にしない大声は、まるで獰猛な獣のような本能に従っただけの笑いのように感じられる。そして、それは僕の恐怖心を煽るには十分な物だった。

 まるで奈落の穴のようなその声が底に付くまで、僕はそれを聞く羽目になる。

「だめだよ優孝くん。そんな熱い告白されたらぁ……。私……私……」

 いったん笑い声が収まったので、一度彼女の方へ目線を戻す。顔を両手で押さえながら震えるようにしている少女からは、文字通り嵐の前の静けさを体現しているようで、僕はそれを体感し、後ずさってしまう。

 両手の中から彼女が吐き出す吐息が声を伴うほどに荒々しくなり、その体温の上昇と体が赤く染まって行く姿は暗がりの中でもよく見えていた。

「頭真っ白になっちゃうよぉぉ!」

 顔を上に向け、先ほどの様に高笑いをし出す。周りが暗いこともあって、その顔がどんな顔をしているのかはわからないが、そもそもそんなことは今の僕にはどうでもいい。僕の頭の中にあるのは逃げなければというその一言だけであった。

 この場所がどこなのかはわからないが、窓よりもこの部屋の正規の出入り口であるドアの方が僕から近いので、慌ててそっちへ向かう。運がいいのか鍵もかかっていなかったので、扉を開けることが出来た。

 扉を開けた先は、下りの階段があり、ここが一階ではないことと、上の階がないことを告げる。大きな足音が立つことも、転びそうになることも、僕は何も考えず階段を降りようとした。

 階段に足を付けてすぐに、後ろから何かが迫ってくるが、そんなことは気にしない。少女が笑っていようがそうでなかろうが、もう関わらなければどうでもいいのだ。今はなにより僕の知る世界の外にある世界から離れるのが先決である。

 ほんとは気にするべきだった。とその直後に感じさせられた。

 その理由は一つ、僕の首筋をナメクジでもつけられたかのようなぬるっとした感覚が襲ったのだ。その気持ち悪さは想像もしたくないほどで、背筋はもちろんのこと、体全体が凍り付いてしまい、体の動きが止まる。

現実から目を背けたい自らの体を無理やり動かし、現実へと目を向ける。

しかし、目を向けたその先が現実ではないと僕は確信したいような光景を目にすることになった。

目の前にいるそれは植物系の触手と言った存在だろうか。緑色のうねうねした異常な長さを持つミミズのようなそれは、大きさも僕が知る一般的な植物のそれと違う。全体の背丈は僕の身長よりも大きく、先端にグロテスクな色をした赤い花のようなふくらみがあり、ドロドロとした粘液を垂れ流す割れ目から舌の様な物が出ている。

見た目がどうこうという話ではない。そもそも普通の植物は風でもなければ動くわけがないし、こんな建物の階段に生えたりしない。

この世の物とは思えないような光景。正真正銘の化け物が目の前にいる状態で、当然の様に先ほどの少女の笑い声のような大きさの叫び声をあげてしまった。

「あははは。いきなりごめんね。あんまり優孝くんがかっこいいこと言っちゃうから頭飛んじゃって……いっぱい出ちゃったの……」

「出たって……何が……」

「黒魔術が……暴発しちゃって……」

 何を言っているのと言いたいところだが、目の前の現状を見ればそうとも言えない。こんなおかしな植物のようなものとよく見るとその生え際にあった紫色の魔法陣的なものがこの光景が僕の知る既存の存在ではない事を物語っている。

 黒魔術なる物が何なのかは僕の知るところではないし、多くの人が本当にあるとは思っていないはずだ。だが、目の前に無認識な存在があることは事実であり、それが理解を拒否する僕に叩きつけられている。

 僕は今までゆいなと共に生きて、その中で形成された自分という人格。それが今までの人生の中になかった存在である黒魔術なる存在を拒否しようと、それに対する負の感情を押し流す。

 そんな今までの人生を覆されるような衝撃。そしてその象徴たる少女が僕を好いているということ。それになにより、その少女がゆいなかもしれないなんて、僕にとって拒否したい現実が最も拒否したくない部分から襲い掛かってきたのだ。

 一方で例の植物の方はというと、僕へ襲ってきてそのまま食べるのかと思いきや、少女の方へ興味が引かれているのか、そっちの方に口を向けている。

「あぁん……だめぇ……優孝くんが見てるのにぃ……」

 舌の様な物が彼女の頬を一度舐める。例によってどろどろした粘液がその後を辿る。当然と言えば当然なのか、少女はその僕からは見るだけで気持ち悪い液体を嫌そうにはしていない。それどこから指ですくい、半透明で粘り気のある液体で汚れた自分の指をじろじろ見ている。

 特に嫌そうにしていないそれを見て味を占めたのか、植物は反対側の頬も舐めている。

「いやぁ……見ないでぇ……。力がぁ……抑えられないよぉ……」

 僕だってこんなことが現実に存在することを見たくはない。だが、目の前の光景で足がすくんでしまい、僕は動くことが出来ないのだ。

 そんな物を見せないで欲しい。必死に僕の頭が目の前の光景を拒否し、思考を待つ前に目が閉じられる。

「そこだけはぁ、絶対触らせないよぉ。私のファーストキスは優孝くんにあげるんだからぁ……」

 彼女の頬だけでなく、口の中も侵食しようとしていた植物の動きが止まる。力がどうこうという言葉から察するに、主人の命令には逆らえないのだろう。息を荒くしながらも、畏怖の象徴が僕のそばまで近寄ってくる。

「あの……僕は……」

「安心して。優孝くんは何もしなくていいから。私が全部してあげる」

 彼女が何をしようとしているのかなど火を見るより明らか。

嫌だ、お前はそんなことをしたくない。と本能が告げる。そうだ。あれは嫌なんだ。だから、なんとしても回避しなければ。例え相手が自分自身ともいえるそれだったとしても。

逃げようと僕はそれから背を向ける。だが、一般人まがいの僕が不可思議な力を使う彼女から逃げられる自覚もあまりなかった。だが、逃げないという選択肢はない。

「ふふっ、逃がさないよ?」

 逃げようとする僕の腕に何かが絡みつく。それは先ほどからいる植物とはまた違う植物であることが一目でわかった。それは彼女の腕から生えだした蔓の様な植物。

 どんどん蔓は増殖を繰り返し、僕の体に絡みついてくる。中には、その体の一部からではなく地面から例の魔法陣が勝手に描かれそこからひときわ太い蔓が現れ、僕の体の自由をより強く奪っていった。

「すごぉい。これだと優孝くんの体に密着できちゃう」

 植物がそうしているように、少女も身動きを完全に取れなくなった僕に寄りかかるように密着し、植物の上から僕の胸の辺りをさする。少しさすられただけで背筋がぞくぞくする感覚が僕を襲う。

「あっ、そういえば優孝くんのここ、大変なことになっちゃってるよ?」

 僕の蔓に縛られた右腕の先、つまり手を彼女が握る。そしてよく見ると、蔓の中に含まれる植物の濁りを持ちドロドロとした体液が付いていた。迫ってくるそれに気を取られていて、気づくのが遅れてしまった。

「今綺麗にしてあげるね」

 僕の手を縛っていた蔓が解けて行き、右手首の先だけが自由になり、それと同時に僕の右手と自分の顔が同じ高さになるように彼女はしゃがむ。そして僕の指を見て頬を赤くしうっとりとした目、つまりは恍惚的な表情を浮かべ始めた。

 こんな表情を人が出来るのかという衝撃に僕はさいなまれる。少なくても、僕の知るべき存在ではない。目を背けたいが、植物に体を縛られ動かすことが出来ない。

「これが、優孝くんの……。子供の時見たのと全然違う……すごい、おっきいね……。それに、すごい粘液の臭い……」

 ゆいなの指は確かに小さい。だが僕の指も男子全体から見たら決して大きいわけではないし、例の粘液に何か特別な力でもあるのだろうか。

 熱くなるような感覚がする僕の体の一部に彼女の冷たい手の感覚が伝わる。その温度差はお互いその物の様な気がしてしまった。

「じゃあ、お掃除しちゃうね……」

「んっ、ちゅ……ちゅる……」

「ちょっ、なに、して……」

 僕の人差し指に何かどろっとした熱い物が這うような感覚に襲われる。先ほども似たような感触を体験したのでそれが何かは言わなくてもわかる。例の少女の舌だ。僕の指についた粘液を丁寧になめとるように舌を動かしている。

「ちゅる……れろれろ……」

「そんな、まんべんなくしなくても……」

「だめ。優孝くんの指おいしいんだから……」

「爪の所も……しっかり……ここに臭い溜まりやすいんだよ……」

 指を舐められる感覚は初めてで、頭に意識が集まっていく。体が必至に頭を抑えようと力がこもるが、少したりとも体が動く様子はない。

「じゅる……ちゅう、ちゅう……はぁ……はぁ……ほら、きれいになったよ。じゃあ、次はこっちの指……」

「今度は、もっとすごいのしちゃうから……。それじゃあ、行くよ?」

 僕の中指全体に温かさが伝わる。それが、僕の指が咥えられたことによるものだと気づくのに時間はかからなかった。口の中で彼女の舌が僕の指をからめとる。

「んじゅ……じゅぶ……じゅるる……」

 僕の指を吸い上げる音が部屋に響き渡る。口をすぼめ、口の中に僕の指が吸い付けられている様であった。

「んじゅぶぶ、んじゅ、じゅぶ……」

 指をしゃぶる彼女の口が爪先と付け根を行ったり来たりする。それと同時に丁寧に舌を使い、僕の中指に着いた粘液は全て彼女の唾液に変えられた。

「ぷはぁ……。はぁ……はぁ……優孝くんの指、すごいい……。もっと、したいよぉ……」

 あらがおうと僕の体がどんどん悲鳴を上げていく。だが、その声はどこにも届くことなどないことを僕はよく知っていた。だって、ゆいながいない今、僕を救う人なんて、どこにもいない。ゆいな、どこにいるの……


 僕の右手は彼女の口によってすべて侵され、なすすべもなく僕の意識は焼き爛れて行った。視界は嫌でもそれの顔に支配されていく。身動きを取って拒否しようにも動けば動くほどに出来た隙間を触手に封じられ、身動きが取れなくなる。

「優孝くん、じゃあ、しちゃうね……。私の初めて……もらって……」

 僕の両頬に両手を添え、そのまま口を近づけてくる。僕の視界は嫌でもそれの顔に支配されていく。身動きを取って拒否しようにも動けば動くほどに出来た隙間を触手に封じられ、身動きが取れなくなる。

互いの目は互いを見合っている物の、視線は全く違う物を見ていて、どっちがどっちをみているのかわからなかった。

「ちゅ……ちゅぶ……」

 柔らかな唇の感触が伝わってくる。初めての感覚に戸惑いながらも、普通に触れるよりもより強く感じられる体温の感覚ははっきりと伝わってきた。熱く焼けるような感覚が伝わらないように、僕は願うが、当然と言うべきなのかこれで終わりではない。

「んっ、ちゅぱっ……んんっ……」

 戸惑う僕の隙だらけな口の中に彼女の舌が入り込んでくる。口の中で動く自分の物とは違う舌の感覚と、粘膜がこすりつけ合う感覚。互いの吐息と唾液を交換しあう少女の行為はどんどん勢いを増していき、互いの息の限界まで僕の中を侵し続けた。

「はぁはぁ……」

 離された口から彼女の温かくなった息を感じる肌と互いの舌を繋ぐ唾液の橋のせいでまだ口が離れた心地がしない。それと、キスによって何らかが体内で起こったのか、彼女の目の色が琥珀色から桃色に変化している。

「すごかったぁ……。もっと……したいよぉ……」

 僕の目にはよく見られた顔が、深いキスをすることで気持ちよくなったのか、光悦とした表情をしているように映り、恐ろしい嫌悪感を抱く。


昔からこれとよく似た顔をずっと見て育ってきて。彼女の親友で互いに切っても切り離せない関係にいるのが、僕がこの世界に認知されていて、この世界の住人でいる証拠でもあった。彼女がいるおかげで、僕は人間なんだと思っていた。

『実はね、私、好きな人がいるの』

でも、そうやって自分を騙し続けるのも限界がきている。次から次へと人々は幻想の世界を捨て、現実へと旅立つ中、僕はずっと事実から目を背け続けていた

やっぱり僕は普通の人間じゃない。おとぎ話の世界に憧れ、そのまま異世界へと旅立ち、終わりなき永遠の幻を眺めていたんだ。

本当にこの世界に必要ないのはどっちだ。僕か、それとも彼女か。

 僕はこの世界の人間ではない。だったら……

 

あの夜のことを思い出す。世の中のために、そして何より僕のために夜遅くまで仕事を頑張っていると言っていた両親。親戚から父親とあまり似てないと言われながらも彼らのようになりたいと憧れていた僕に叩きつけられた現実。

 玄関でお母さんと交互に抱き合う僕はおろかお父さんよりも年上のおじさんたち。しまっていく扉の先の外で財布の中を確認するお父さん。

 僕の言葉をあざ笑うおじさんたち。申し訳なさそうにしながらも謝ることをしないお母さん。

 あの日から、現実から目を背け、僕は夢の世界を見始めた。

 僕はもう両親の顔をはっきりと覚えていない。なぜなら、文字通りみていないからだ。彼らの帰りは相変わらず遅いし、僕はあの日以降夜八時には寝ている。夜は僕らと違う存在が生きる時間、おとぎ話が生きる時間なのだから。


 あの夜の事を思い出すことはたびたびある。そのたびに僕の中にかつては確かにあった両親への幻想が破壊された時の感覚が体を駆け巡り、変化を恐れて自分の世界に閉じこもる。

今回の様に夢に見る日も、何かのきっかけで起こることもある。夢に見て目が覚めた時は体中が汗でびっしょりになるし、頭が痛いことが多い。今回もそのようで、起きた瞬間に感じたのは何よりも頭痛であった。

 僕は彼女と最初に会った場所にあったベッドの上にいた。

「優孝くん、起きたぁ。よかった……」

 寝かされていたベッドの横に琥珀色の瞳を持つゆいなのような少女がいた。声もあったので、彼女の遠慮のない笑みが、起きた僕が最初に見ることになった物になる。

 少女という性に積極的な存在は、恋愛というものをするに至らない僕よりも成長したように見えて。それを受け入れることは彼らに近づいているような気になって。

 彼らのようになってはいけない。あれは人に幻を見せて食い物にする魔物だ。本当にいらないのは彼らで、僕じゃないはずなんだ。

「もし優孝くんが気を失った時は私ショックで……」

 本当に安心したような態度を見せる少女。上半身だけ起こした僕にさりげなく抱き付いてくる。だが、その行為で僕の頭痛は勢いを増す。あの時感じた恐怖が体中に再燃し、その炎から逃れようと、夢の世界への扉をこじ開けようと頭が必至に指示を出す。

「……やめて」

「えっ」

「やめてよ。何で僕にすり寄ってくるの」

 僕の中の絵本を燃やし、燃え盛る炎とは打って変わってとても冷たい声がでた。流石に少女も驚いたのか、僕から離れる。それから僕らの間には短い静寂が流れる。

「私ね……秘密にしてたけど……。優孝くんのこと、ずっと好きだったんだよ……。でも、優孝くんに嫌われるのが怖くて、ずっと言い出せなかった……」

 僕のことを信じて、勇気を出して秘密を告白したゆいなとその姿が重なる。

ゆいなは今日、好きな人がいると言っていた。それは、僕だったのかもしれないと一瞬思うが、だとしたらなぜわざわざ本人に言うのかという疑問が生まれる。好きな人がいることなんて、本人に言うのが一番恥ずかしいと聞くからだ。もし恥ずかしがりなゆいなが勇気を振り絞って自分の気持ちに気付いて欲しいと思っていたとしたら……

でも、それはあくまで憶測に過ぎない。それに、ゆいなが勇気を出してくれたならそれに答えたいと思う気持ちもあるのは事実だが、それに答えたくないという気持ちも同時にあるのも事実であった。なぜなら、相手は僕が自分よりも大切な人なのだから。そんなゆいなが僕の事を好きと認めるということは、僕自身もずっと目を背けていた夢の世界からの旅立ちを認めることになってしまうのだ。

僕も一緒に羽を広げ旅立ちたくないわけじゃない。でも、その先の無数の大嵐が渦巻いていて、一度飛ぶことを捨て、飛び方を知らない僕は巣の中で一生を過ごすことをからもう引き返すことが出来ない。

「優孝くんは……私の事、嫌い……?」

 ゆいなと顔は似ている物の、彼女がゆいなだという確証はどこにもない。そもそも昨日のゆいなと今日のゆいなが同一人物であることを証明するには彼女を一日監視し続けでもしなければ不可能だ。人は日々拒否し続けても変わり続けている。でも、僕だけはそうじゃない。見た目の成長はあるかもしれない。でも、それ以外はあの夜すべてを壊されてから何も変わってない。

「さっきキスした時も、ホントは嫌だったの?」

 どう答えればいいんだ。例えるのであれば、僕という白鳥の子どもをアヒルだと定義していたゆいながいないどころか、白鳥であることを肯定しているのかもしれないような物。仮に僕がほんとうに白鳥だったとしても、僕という存在は、自分自身はもちろん世界でアヒルだと認識されている。

「答えられるわけ……ない……」

 この短い間でも、彼女が僕を強く思っていることはわかる。その気持ちそのものは何も悪くない。でも、それを肯定することは、過去の時間を生き続けて来た無数の僕が許さないのだ。僕を否定することは、それは、彼女自身も否定することになる。

「ふふっ、じゃあ、答えなくていいよ。私が嫌でも優孝くんにわからせてあげるから」

「それは、もう、止めて欲しい」

「じゃあ、嫌ってこと?」

 僕を誘うような口調はしない物の、今も人差し指だけを出した握りこぶしを頬に当ててたり、自分のペースを崩さない少女。そんな彼女に決していらだちを感じることもなく、僕は冷めた体を今度は温めたくなったかの様に小さくする。

 昨日の僕なら何と答えるだろう。嫌だと答えるに違いない。じゃあ一昨日の僕は? それも嫌だと答えるだろう、その前の日も、その前の日も、嫌だって答えるに違いない。

 じゃあ今日の僕は? ここで嫌だと答えられなかったら昨日の僕は本当に僕だと言えるのだろうか。そうやって変わり続けて行ったら、いつか彼らのような大人になって行ってしまうんじゃないだろうか。それだけは絶対にダメだ。

 変わりたくない。このままずっといたい。ここにいさせて。お願い、だから……

「嫌じゃ、ないけど……。でも、嫌なんだ。人が変わり続けることが怖いんだ。変わったその先の人は、まるで同じ人じゃないみたいで……でも人は何もしなくても変わり続けて行く。大人になれって、そんなことでくじけるような弱いままじゃだめだって、強くなれって。でも、僕は恋や愛だ言ったり強く一人で生きることよりも、みんなでずっと笑っていられればそれでいいんだ! ずっと変わらない永遠を求めて何が悪いの!」

 何気ない現実の裏には僕の両親のような、信じられないような汚い存在もいて、それどころか目の前の少女の様な魔法という特殊な存在もいて、そしておとぎ話のような現実もいる。思ってはいけないのかもしれないが、なぜ彼らはこれほどに具象化しているというのに僕という存在はおとぎ話となって行くのか。

 きっと不要な物だからなんだろう。人々がそれを記憶にとどめておく限り、この世に存在しない物だとしてもそれは一つの姿かたちを得て、存在しない物だとしても現実に干渉することが出来る。しかし、逆に僕の様なこの世に適合できない存在は幻となり、風と共に砂となって消える。

「そっか……。優孝くんのこと、何でもわかるつもりだったけど、そうでもなかったんだね……」

「でも、ゆいななら、これからはわかってくれるよね……?」

 誰でもいい。僕を繋ぎとめて。まだ終わらないで。

「ごめんね。私は……」

「優孝くんじゃない」

 僕が手繰り寄せた糸はいとも簡単に、まるで花びらと化すようにひらひらと虚空へ消えて行った。


 僕がさっきまでとは違い、いつも聞いていた声から発せられたその言葉の意味を理解できないはずがない。くるくると二人で回し続けた時計塔の針が十二を指し、さっそうとシンデレラは夢の世界から去って行く。その足取りは軽やかで、振り返ることもなく。

「嘘だ……」

「嘘じゃないよ。私は、優孝くんじゃない。そして優孝くんはゆいなじゃない」

「そんなの嘘に決まってる! 僕らは、これまでもこれからも変わらずに……」

「ねぇ、優孝くん。一つだけ聞いて」

 現実から目を背けようと崩れ落ちそうになる僕を奈落から引き釣り出すように少女が支える。

「泣きたい時は泣いてもいいんだよ」

 泣きたい。そんなことはない。僕は泣きたいなんて、ことは……

「だって、私は優孝くんじゃないから、一緒に泣いて上げることはできないけど、涙を拭いて上げることは出来るから。優孝くんは、みんなから取り残されてることをずっと我慢して、たんだよね」

「誰もが前に進み続ける所のに一人だけ立ち止まってる人に進めなんて私は言えないよ。だって、私だって、魔法の力に頼らないと本当の気持ちを伝えられないんだから」

 ゆいなが勇気を出して僕に伝えた言葉。それはきっと僕という存在を自分の物により近づけたかったから。彼女もそうしなければ自分がこの世界に現身としていられないから、だから僕があまり恋愛に興味がなさそうな素振りを見せているというのに秘密を打ち明けたんだ。

「これからも辛いことはいっぱいあると思うし、そのたびに現実から目を背けたくなると思うけど、そのたびに私が優孝くんを泣かせてあげる。だって……」

「私は、今いるそのままの優孝くんを、愛してるから」

 僕はあの夜から、今日という日まで、もしかしたらずっとこの言葉を求めていたのかもしれない。それほどに僕の心は揺れ動かされたのだ。僕がこのままでも、ずっと夢うつつの世界にいても、僕を現実にいることを肯定し、僕と言う存在を語り継いでくれる人が現れることを。

共に幻となってくれる道連れよりも、僕を現実につなぎ留める人を捜し求めていたんだ。


それから僕は、少女の胸を借り、ずっと涙を流し続けた。

今まで僕の中でたまっていた物。人々が羽ばたく中、自分は翼をもがれていたために飛び立てなかった苦しみ。この世界に非常に不安定にしか存在出来なかっただった不安。それらを一身で受け止めてくれる少女。

僕という存在は非常にあいまいで、でもそれはこの世界に確かに存在している物の、人の目には隠れていた存在である黒魔法を使わなければ自らをこの世に確立できないこの少女も同じなんだ。

「あの……」

「ん?」

「一つ言いたいことがあって……」

 ここまでして言っていいのか少し迷いながらも、彼女に伝えてあげたいことがある。

「何でも言っていいよ。もしかして、ひどいこと言って私をいじめてくれるの? いいよ。私はそういう優孝くんも私は好き」

「ちっ、違うよ!」

 真剣に話をしようとしていた僕の緊迫した感情は一瞬で消されてしまう。驚いて後ずさった僕は不意を突かれ、そのままベッドに押し倒されてしまう。逃げようとするも、例の魔法のおかげなのか、少女の筋力は異常なほどで、両手を抑えられた僕は動こうにも動けない。

 僕の顔から月明かりを自身の顔で隠す。その姿は、まるで夜の不思議な世界へ連れて行く妖精のようだ。

「そんなに隙だらけにしちゃだめだよ。女の子だって、狼にはなれるんだから」

「何を……」

「何をって決まってるでしょ?」

 彼女のやり方。僕とは相反する僕が空想の世界へと追いやったそれはきっと彼女にとっては現実な物で。僕らは同じ魔法の力に頼らなければ生きていなけない者だが、僕らは真逆の存在だ。だから、僕がするべきことは一つだ。

「……うん。わかった。君がしたいこと、していいよ」

「えっ、でも……」

 自分からしようとしていたが、僕の予想外の反応に驚いているのだろう。

「僕にとって、ゆいなという存在は半ば僕自身でもあって、そう簡単にわりきれないから、君の事をゆいなだとすぐに認めることは、どうしてもできないんだ。ごめん……」

 僕の中にあるゆいなのイメージと彼女の存在はあまりにかけ離れている。僕の中でゆいなはある意味でこの世界という物を形状化させた物と言えるのかもしれない。そんな人をそう簡単に捻じ曲げるのは、今の僕には無理だ。

「でも、君がもしゆいなじゃなくても、僕にとってはもう大切な人なのにはかわりはないんだ。それじゃ、だめかな……」

 彼女も僕をこの世につなぎとめてくれる。だから僕も彼女をつなぎとめよう。

相手がそのままの姿でこの世にいてくれていいんだよと僕に言ってくれるなら精一杯その呼びかけに答えよう。君もそのままの姿でこの世にいてもいいんだよって。そうし続ければ、この世界は少しだけ生きやすくなるはずだから。

「もぅ、特別だよ。優孝くんじゃなきゃ許してあげないんだから」

 ウィンクしながら答えるその姿はまるで太陽のようで。まぶしいその姿は、僕は間違いなくここにいるんだってことを証明してくれているようだった。明るい光に照らされても消えない今の僕は幻なんかじゃない。

「じゃあ帰ろうか。私たちの世界に」

「……何もしなくていいの?」

「うん。今は優孝くんに今のゆいなの方が前のゆいなより好きになってくれればいいってわかったから。それとも、して欲しかったの?」

「ちっ、違うよ! して欲しいわけじゃ……」

 今は無理でも、いつかはして欲しいって言えるようになろう。変な意味に聞こえるかもしれないけれど、恥ずかしがらずに、君の事を愛してるって言ってあげることが、彼女が一番喜んでくれると信じて。

読んでくれてありがとうございます

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[良い点] ヒロインと主人公が魅力的です。ストーリーは、むしろ長編にした方が映えるのではないかと。 [気になる点] 改行がなくてよみにくかったです。話の切り替わった時にところどころ改行をいれるとよみや…
2017/05/09 18:30 退会済み
管理
[一言] >連絡が遅れてごめんなさい。 大丈夫ですよー! >地の文が多いというのがなぜそう感じたのか教えていただけると嬉しいです。 読みにくかったというのが正直な理由です。たぶん会話率は20%を切っ…
2017/04/01 05:07 退会済み
管理
[良い点] 中盤にある指ペロペロはなかなかエロかったです。 「女の子だって、狼にはなれるんだから」 もかなりのパワーワードですね! [気になる点] 地の文が非常に多く、作品の流れも平淡で、読者が置い…
2017/03/24 17:37 退会済み
管理
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