1.森の家
アミトスチグマ王国は、半分以上が深い森。
西のラキュス湖に面した辺りだけが、平野。国民のほとんどが魔法使いで、湖のほとりに住んでいた。
広い森の中には、ほんの少し、住む人があった。
樵、狩人、薬草採りといった、森の糧で暮らしを立てる人々だった。
双魚少年も、そんなひとり。小さい頃、薬草採りの老夫婦にもらわれた。
それから、ふたりに学んで、森の暮らしやたくさんの薬草のことを覚えた。
養父母と双魚少年の家からは、一番近くの村でも、歩いてゆけば三日はかかる。
森の村には、樵と狩人と陶工の家があるらしい。
双魚少年は、その村が森のどこにあるのかも知らなかった。
養父母と三人で、人里離れた森の奥、小さな丸木小屋に住んでいた。
森の恵み、薬草を摘んで、薬を作る下ごしらえをして、それを街へ持って行って、入用なものと替えっこして、暮らしていた。
森に来て、幾度目かの冬が巡ってきた。
ちらちら雪が降り、葉を落とした木々や森の地面は、粉砂糖をふるったように白く染まった。
「今日はキノコを採りに行こう」
「キノコ?」
養父に誘われ、双魚少年は驚いた。
……こんな寒い日にキノコが生えるのかな?
養父はそんな双魚少年に笑って言った。
「何もキノコはジメジメ蒸し暑い日ばかりに生えるもんじゃない。何年もかけてゆっくり育つ硬いキノコや、寒い日にしか生えないキノコもあるんだよ」
双魚少年には、まだまだ知らないことがたくさんある。
「どんなキノコ採りに行くの?」
「今日は薬の材料ではなくて、ウチで食べる分を採るんだ。おいしいのをな」
双魚少年は、養父と一緒に雪が舞う冬の初めの森へ出掛けて行った。
ふたりが着ているのは、魔法の服だ。
暑くないように、寒くないように、破れないように、魔物から守られるように、養母が一針一針、心をこめて守りの呪文を刺繍してこしらえた。
ふたりは魔法の服のおかげで、森の寒さもへっちゃらだった。
ふたりの吐く息が、ふわりと白く浮かんで消える。
うっすら積もった雪の上に、たくさんの動物たちの足跡をみつけた。
双魚少年も、あれはキツネ、これはウサギ、これはクマ、と幾つか見分けがつくようになってきた。
それでも、まだまだ、知らない足跡が多かった。
葉を落とした裸の木は、それだけでもう、何の種類かわからない。
また春が来て、新しい葉が茂る頃、わかるようになるだろう。
木立の間を吹き抜ける風は冷たい。
その風に目を凝らすと、ぼんやりと風の精が視えた。
あっと言う間にどこかへ飛んでゆき、その姿をしっかり視ることはできなかった。
さくさく、さくさく。
雪の下の地面には霜柱が立ち、歩くたびに靴の下で音を立てる。
「今日、採りに行くキノコは、秋の終わりから冬の初め、枯れ木に生えるんだ」
そう教えられ、双魚少年はうっすら白くなった倒木を見て回った。