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君がいるから  作者: 七瀬幸斗
不幸な出会い
2/45

病室にて

医師の診断に依れば、彼女は軽い打ち身と脳震盪により意識を失っていたとのこと。回復は時間の問題だが、検査入院をする必要があり、一週間の入院になるようだ。もっと恐ろしい事態にならなかったのが、最大の成果とも言えよう。

俺は、会社に連絡して急遽休みを取り、今日一日は彼女の回復を待ち、これからの話をすることへ集中することにした。


「あの。あなたは……?」


彼女の意識が戻ったと連絡が入ったのは、事故からおよそ5時間経った時だった。昼食を取ることも忘れて、俺は彼女の病室へ入った。

ベッドから起き上がり、ただ呆然と窓の外の景色を眺めていた彼女は、その音に気が付きこちらを向くと、そう問いかけてきた。


「あなたが事故に遭遇したこと、聞きましたか?」


そう聞き返すと、彼女はゆっくりとうなずく。俺は、自分が何者かを丁寧に説明した。


「そうですか……。あの時に私、気を失っちゃったんですね」


苦笑いをする彼女。俺の心は居たたまれない気持ちが渦巻き、気が付くと深々と頭を下げていた。


「えっ、あ、あのっ……えっ?」


状況に対応しきれないのか、困惑した声を出してうろたえていた。それでも俺は頭を上げず、謝罪の言葉を告げた。


「本当にすみませんでした。このお詫びは、きちんと満足のいくまでさせていただきます」


「や、あの、そんな、大丈夫です。私が驚いて転んだだけの情けない、お恥ずかしい話なのに、お詫びなんて……あ、あの、本当に大丈夫なので……お、お顔、上げてください」


あたふたしたその声だったが、俺は自分が情けなく、とても対面できるものとは思えなかった。そして、せっかくの彼女の厚意に水を差すように、こう言った。


「いえ、それでは俺の気持ちが治まりません。慰謝料でも通院費でも、何でもいいのでお詫びさせてください。お願いします!」


「あ、あの……。そ、それよりも、そう言えば、自己紹介まだでしたね?」


しかし彼女はわかりやすく話を切り替え、そんな、能天気とも取れる質問を投げかけてきた。


「私、天宮(アマミヤ) 陽菜(ヒナ)って言います。こうして、きっと何かの縁でお話できているのだから……気難しいこと話は、今はやめましょう?」


微笑みながら、彼女――天宮さんはそう言った。俺はそんな彼女を前に、続ける言葉が出てこなかった。


「妹尾、です。妹尾 秀哉」


そのまま何となしに、名乗っていた。天宮さんは俺の名前を復唱し、ゆっくりと微笑んだ。


「すみません。私のせいで……」


「いや、あれは俺の過失であって、天宮さんは何にも悪くないです!」


変わらず俺を責めてこようとしない天宮さんに対して、俺は強く否定する。そこからどれだけ訴えても、彼女が聞き入れる気はなかった。


「……ごめんなさい。延々と、同じことばかり」


似通った話を3度ほどしたところで、俺は今一度謝罪する。それでも彼女は、気にしないでの一点張りだった。


「いいえ。本当に、そういうのは結構なだけですから」


扉がノックされる。彼女が応えると、病室に入ってきたのはピッチリとしたスーツを身に纏った、40歳前後の男二人だった。

先頭だって来た人が見せてきたのは、いわゆる警察手帳だった。


「事故当時の状況について、お伺いしたいことがあります。お時間よろしいですね?」


どうやら、後回しにさせてはもらえないみたいだった。俺はうなずき、彼女の病室を後にした。

その後、彼らの聴取から解放された頃には日が暮れており、今日は帰路に就くことにした。


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