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異世界デビュー

蒸し暑い空気が朱色に染まった(イツキ)の頬を掠めた。

じっとりと汗が滲む額には髪がへばりつき、目を開けたら汗が目に入りかなり痛い思いをしそうだった。



この時点で既に異常事態だと気付いてはいたのだ。

火事でも起きたか高熱でも出したかだろうと検討を付けた樹がそれでも目を開けられなかった事は誰も責められないであろう。


樹が思い出せる限り最後に眠りに付いたのは一月、極寒の夜。

それに加え今の今まで現実逃避と言う素敵な力のおかげで無視出来ていた蝉の声があまりにも五月蝿く、耳が痛くなりそうだった。

これはどう考えても夏である。そう直感が訴え掛けてくるようで背筋がぞわっとした。


このまま漠然とした思考を巡らせていても状況は変わらない、とようやく決心を付けた樹は恐る恐る目を開けたが、そこには見慣れぬ天井があるだけだった。

どうやら自分の家では無いというたったそれだけの事にすら思考は付いて行かず、やっとこさそれを理解した時には激しい不安と怒りが込み上げてどうしようも無いムシャクシャとした気持ちが心を占領した。

もしも戦わなければいけない状況だったのなら即死していただろう。


ため息とも呻きとも付かない声を出して混乱を無理矢理収め、勢いよく体を起こした。

誰もいないにも関わらず平静を装いながら膝に目を落とした途端あまりの恐怖に叫び声をあげそうになった。


実際は「ひっ」という情けない声が出ただけではあるが恐怖は充分に絶叫するに価する物だったと思われる。


樹が見たのは残酷な現実だった。


少年らしく程よい筋肉が付き、色は日本人にしては白いがまあ平凡な体をしていた…はずだった。



はずだったのだ。



真っ白。第一印象はそんな感じである。

ただ色白なのとは違う、漂白でもしたのかと思う白さ、細く柔らかそうなその足はまるで女性の足…



「俺は…誰だ?」



出た声はハスキーな美しい音ーーーー


愕然とし、肩口まで伸びた髪を乱暴に引っ張りその色を見ると極々薄い茶色だったが毛先はどう見ても白だった。


樹が見た物は、異常な体だけでは無い。異常な体を通してもう逃げる事すら叶わない程重苦しい現実を見たのだ。


神とやらは樹をどん底まで叩き落とした。


無神論者の樹だったがこの時ばかりは神を恨んだ。



今の状況をどうこうしようだとか何か行動を起こそうという気力はさっぱり失せ、畳み掛けるように樹を襲った現実にたた呆然とし、やっと現実を理解した時には涙しか出てこなかったーーーー




20分程泣いていただろうか。

泣く事によって水分不足やら体力消耗やらを引き起こし、結果吐き気と頭痛でダウンしてしまったのだ。

きもちわりぃ…と思いつつ一旦泣き止んでしまえば少しは冷静になるもので、樹は周りをげんなりした気分で眺めるも見事に何もない。


生成りの天井、淡い薄緑の壁、ダークブラウンといった感じがしっくりくる床、窓の外は青々と茂る木と葉の隙間から覗く晴天の空、自分が寝っ転がっていたのは自分が普段から使っているベットーー

これだけ見ればまだ、どこかに売られただとかいう現実逃避が出来たのだがどうやら自分の体が一新されているようなので認めざるを得なかった。


「ここは地球じゃない」


がっくりと項垂れ、カラカラに乾いた呻き声をあげながらもう一度ベットに倒れこみ、ふと違和感を感じた。


「ドアが無い!?」

そう言えばおかしいと思った。逃げようだとか人を探そうだとか普通は思うはずだ。それなのにそんな事は考えず泣き喚いてベットにうずくまる…明らかにおかしいのに何故今の今まで気付かなかった?

そういえば窓も開くような仕様では無かった…これじゃあまるで囚人室だと思った時更なる事実に気付いた。


樹が目覚めた時、頬にしっかりと熱風を感じたのだ。またも現実が樹にのしかかってきた。


風を感じたという事はあの時点では窓が開いていた、もしくは外だった…?


段々思考はまとまらなくなり、激しい頭痛で "目が覚めた"

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