8,あたしは受験生
思いもよらなかった、中学時代の先輩を知り、あたしは一睡もできずにいた。
あたしが仮入部のときに一目惚れして、同じバスケ部に入って、必死の努力でやっとつき合えた。
ずっと、そう思ってた。
それなのに・・・・。
「入学式であたしに一目惚れ? ありえない・・・」
8時。
あたしは一睡もできず、お腹がすいたので、1階のキッチンへと降りていった。
「おはよ~」
そこにはすでにお姉ちゃんがいて、トーストを食べていた。
「おはよ。今日はバイト?」
休みの日にこんな時間にお姉ちゃんが起きているのは珍しい。
「そうなの! 本当は午後からだったんだけど、午前の人が来れなくなって、しょうがなく」
なるほど、あたしは納得しながら、食パンを1枚焼く。
インスタントコーヒーの粉をマグカップに入れ、お湯を注ぐ。
「ねぇ、昨日のことだけど・・・」
「あ、あたしは受験で忙しいの! その話はもう終わりにして」
チンっとトーストの焼けた音がする。
お皿にのせ、バターをぬっていく。
「・・・和人くんが、杏菜の携帯番号教えてって言ってたから勝手に教えちゃった」
お姉ちゃんのこの発言にあたしは持っていたマグカップを落としそうになった。
「かかか勝手にっ!? 何やってんのよっっ!!!!」
信じられないっ!!!!
いくら姉妹でもやっていいことと悪いことがあるでしょ!?
「そんなに怒らなくても・・・じゃあ、聞くけど」
お姉ちゃんが真っ直ぐ、あたしを見つめる。
「杏菜はどうして、和人くんのこと嫌がるわけ?」
「どうしてって・・・だって、あたしは・・・今は、受験で精一杯だし・・・」
「まぁた、それ!? 受験とかじゃなくて、杏菜の気持ちはどうなのよ?」
「あ・・たしの・・・気持ち??」
「そ。杏菜は受験とか関係なしに、和人くんのことどう思ってるの?」
・・・・・。
・・・・。
「・・・。さぁ?」
「“さぁ?”って・・・」
「もうっ! お姉ちゃんはバイトでしょ!? あたしは勉強するから! 早く行ってよ」
何か言いたげな姉を無理矢理、部屋から追い出す。
まったく・・・。あたしは受験で、恋愛どころじゃないんだから。