6,誤解だからっ!!!
バイクのスピードにもようやく慣れた頃、うちの家の前にたどりついた。
『着いたよ』
バイクが止まり、先輩が振り向く。
しがみついていた手を離し、ヘルメットを脱いだ。
「・・・じゃあ」
脱いだヘルメットを先輩に渡し、家の中へ入ろうとしたとき。
ふいに左手首をつかまれた。
そのせいで動きが止まってしまう。
『あのさっ・・・さっきのこと、もう一度、か・・』
「あれ?? 杏菜? 何してんの?」
途切れた先輩の言葉と同時に聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。
「まさくん、ありがと♪ またねぇ~」
その声の主が乗せてもらっていた車の運転手に声をかけると、中から『愛してるよ。おやすみ』と恥ずかしい台詞が聞こえてきた。
そして、そのままあたしたちの横を走り去っていく。
あたしはつかまれていた手を振りほどき、突然現れた人物を見た。
「お、お姉ちゃん・・・今、帰り?」
白のミニ丈ワンピースに身を包み、胸下まである茶色の長い髪は丁寧に巻かれている。
明け方近いのに崩れないメイクが施されている人物は、あたしの2つ上の姉、杏子。
都内の音楽大学2年生。
「うん♪デートの帰り。そーゆう、あんたこそ・・・」
お姉ちゃんは、あたしの全身を上から下まで眺め、すぐ後ろにいる先輩とあたしを交互に見た。
「そんな格好じゃ、デートじゃなさそうだけど・・・」
不思議そうに見ながら、そう言うお姉ちゃんを見た先輩が突然、大きな声を出す。
『杏子ちゃん??』
えっ? 知り合い??
「え~~、誰だっけ・・・って、もしかして、和人くん??」
『正解♪ いやぁ、杏子ちゃん、変わったね~! 昔よりキレイになったじゃん』
「ふふ、ありがと。そーゆう和人くんだって、変わったよ!! かっこよくなったね~」
あたしは二人の間に挟まれながら、二人のやりとりを聞いていた。
あぁ、そっか。
二人とも中学のときの同級生か。
それにしても・・・この二人、こんなに親しかったっけ?
バスケ部と吹奏楽部だし、同じクラスにもなったことないって言ってたし。
「たしか、杏菜と和人くんって、つき合ってたんだっけ?」
突然、お姉ちゃんが言ったことに、あたしはドキっとした。
なな何で知ってるの!?
あたし、一度も言ったことないし!!!
「もしかして、またつき合い始めたの??」
えっっ~~~~~~~~~~~!!??
ななななななな、何を・・・・・・・・言って・・・・・!!??
「ちちち違うから!!! そんなんじゃないから!! まったくもって誤解だから!!!!!」
動揺を隠しながら(隠しきれてないけど・・・)あたしは家の中へ入り、大きく息を吐いた。
『おいっ・・! ちょ・・待てよ、杏菜っっ・・!!!』
そんな先輩の声が聞こえたのを無視しながら。