5,何であたしが!?
『信じられないか・・・まあ、そうだろうな』
先輩は一人納得しながら、ブツブツ言っている。
静かな波音が響いているように聞こえる。
心地よい初夏の風が二人の間をすり抜ける。
『・・・今日はいきなりでごめん。また出直す』
先輩は、はにかんだような笑みを浮かべる。
帰ろうか、そう言って手を差し出された。
意味はわかるけど・・・。
この手をとってもいいのか悩んでいると。
『暗いし、砂浜で歩きづらいだろうから、だから、手ぇ貸して?』
ななな何!? この王子様キャラは!?
宮田先輩ってこんな人だっけ??
あたしが知ってる宮田先輩は。
バスケはうまいけど、短気で我が儘で八方美人で、だけど優しくて心配性で・・・・。
どっちかっていうと、【俺様キャラ】じゃなかったっけ?
手をつなぎたくても照れてるのか、半年間、一度もつないでくれなかった。
5年前とは違う、優しすぎる王子様キャラの先輩になぜだか、ドキドキする。
こんな自分勝手な奴、嫌いになったのに。
忘れようと思ったのに。
「・・・しょうがないなぁ」
そう言いながら、あたしは自分の右手を差し出した。
あったかくて大きな先輩の左手があたしの右手を包み込む。
繋がれた手のぬくもりにドキドキしながら、あたしたちは無言で夜の砂浜を歩いていく。
サッサッ・・という砂の音だけが響く。
たった数分がすごく長い時間に感じられた。
『はい。これ被って』
頭にヘルメットを被せられる。
その距離が近くて・・・・。
あたしは思わず、目をそらしてしまった。
やっば・・・。あたしってば何しちゃってんの!?
これじゃあ、誤解される・・・。
クスクスという先輩の笑い声が聞こえる。
ははは恥ずかしい!!!!!!!!!!!
『家まで送る。しっかりつかまってろよ』
バイクは来た道を戻って走り出す。
来るときよりも、ドキドキしながら、しょうがなく・・・。
ホント、しょうがなく、先輩にしがみつきながら。