理由
言ってみれば、彼は星を観る天才だった。ごく自然に夜空を見上げて、そこから何かを見出だすことが出来る特別な感性が備わっていた。とはいえ、やたら逸話に詳しいとか、一瞬で星座を見つけるとか、そういう分かりやすい特技ではないので、一般的には『ヘンな人』という事になっている。
「あの星とあの星は双子だね」
スラリと長い右手の人差し指で空を示す。
「どれ?」
「ほら、あの小さくて青い子と小さくて赤い子」
「ふぅん……なんで双子なの?」
どの星の事だか、分からないけれど。
「光り方がそっくりなんだ。チカッ、チカッ、パッ、てね。楽しそうに二人で喋っているみたいだ。それで青と赤だろ。男の子と女の子の双子だな」
空を見上げたまま説明して、満足そうに微笑む。星の光り方の違いなんて区別がつかなかった。
「仲良しの友達かも。親子とか、親戚とか……幼なじみ、とか」
「僕と君みたいにね」
やっと視線を下ろして、私を視界に納める。彼の横顔をじっと眺めていたので、真正面から目が合ってしまう。悪戯が見つかった子供みたいに視線が泳いだ。
「寒くない?」
「あ……う、うん、大丈夫」
それでも無造作に私の右手を握って、彼のコートの左ポケットに突っ込んだ。そして、何も言わずに星を観る天才に戻る。
だから、私は彼が好きだ。
(了)
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