閑話 奏視点
いつも誰もが見ない場所で直向きに頑張る子、奏が柚葉に抱いた初めての感情だった。
この間、引越してきた真向かいの家族、栗原家。奏の部屋の窓からは栗原家の家が見える。別に意識していなくても物が動けば否応なく見えてしまう。最初はただの気まぐれだったんだと思う。
ある昼下がり栗原家は広い庭に何かの花を植えようとしていた。沢山の球根が入った紙袋が幾つも置かれていた。土を入れ終わった所で両親が双子に球根を入れる指示を出して家の中へ入っていった。最初のうちは2人でせっせとシャベルで掘って球根を入れていたけど、3個ぐらい終えてピンクの女の子が飽きてしまったぽい。途端にシャベルをポイと投げて縄跳びに夢中になってしまった。それでも水色の女の子はひたすら球根を埋めていく。とうとう縄跳びにも飽きたピンクの女の子は家に戻ってしまった。まだ球根は沢山あるのに。
夕方近くになって再び奏は窓を覗いた。驚いたことに水色の女の子はまだ球根を埋めていた。手も足も泥だらけになって。庭に隣接したリビングから女の子の母親が窓を開けた。
「柚葉。よく頑張ったわね。」
すると母親の横からピンクの女の子も覗いてきた。
手には大きな食べかけのクッキーを持って。
「ママー!桃花も半分やったよ!」
「2人ともえらかったわね。」
母親は水色の女の子に家に入るよう促して窓を閉めた。
残された水色の女の子は後片付けをして、玄関から家に入って行った。なぜか奏の心に引っかかった出来事だった。
それからというもの、こういう光景によく出会した。
保育園で掃除当番だというのに桃花は途中でブランコで遊ぶ。残された柚葉だけが掃除を一生懸命やっていた。見かねた奏が手伝った。こんな事が続き居た堪れなくなり奏は柚葉に聞いてみた。
「こういうのって、酷いと思わないの?」
柚葉は少し考える仕草をし、奏にこう言った。
「辛くなったら、私も休むから平気だよ。」
その笑顔はとても眩しくて、直視できないけど、なんでだろう目が奪われてしまって外らせない。こんな経験、奏にとって初めてだった。
「じゃあ辛くなったら一番最初に俺に言って。俺が柚葉を休ませるから。」
「ありがとう。」
柚葉たちが引越してきて半年が経った。
柚葉の家の庭は満開に花が咲いた。200本近く咲いた庭園は通行人でさえ足を止める程だ。ふと柚葉が庭にでて水を撒いているのが目に入った。奏は自分の部屋から飛び出し、真向かいの栗原家に向かった。柚葉は奏に気付くと門を開けて庭園へと招きいれた。
「綺麗だな。なんていう花?」
「チューリップだよ。」
柚葉は奏が花の名前を知らなかったコトに、可笑しいねとでも言いたげに笑い出した。水色のワンピースを着て沢山の色彩の花に囲まれた柚葉の笑顔を、奏は忘れることが出来ない。
「何色が好き?」
思わず心を読まれたのかと、奏は慌てて水色と答えてしまう。すると柚葉はポケットからハサミを出して一本のチューリップの茎を切った。そして奏に手渡した。水色のチューリップだった。
水色のチューリップは奏のベッドヘッドに飾った。母に頼んで、母のスマホで花を写してもらった。写してもらった写真は今は奏のスマホの待ち受けになっている。




