閑話 桃花視点
15歳12月24日 放課後(後半)
「桃花はここに座って待ってて。」
ajittoのお店の中にはいくつかソファがあって、そこで打ち合わせをするカップルもいる。奏が指差したのはワインレッド色のベルベット素材でできたソファだ。しかも猫足。まるでお姫様気分になった桃花はソファに腰を下ろした。
座り心地もフワフワで最高。桃花は寛ぎながら目の前に置いてあるアクセサリーのパンフレットをパラパラと捲った。パンフレットのトップ写真にはブライダル用の指輪がいくつも輝いて写っており、夢想する桃花の胸が躍った。
……奏ちゃん遅いな。パンフレットに飽きた桃花は座りながらお店を見渡した。すぐに奏は見つかったけど、なにやら商品を探してる様子。何してんだろ。次の瞬間、桃花は意外な光景を目にする。
奏が見つめていた先には1組のカップルと店員だ。店員があるネックレスを手に持つと説明し始める。
「このネックレスは雪の結晶をモチーフにして真ん中にアクアマリンを嵌め込んであるんです。小さくても凄く輝きますよ。職人さんの手作りで一点ものなんです。」
説明を聞いたカップルは決めかねている様子で相談し合っている。すると後ろから見ていた奏がカップルに声をかけた。
「すみません。もしよかったらそのネックレス、俺に譲ってくれませんか?」
一瞬のことで桃花は理解できない、カップルもお互い目を見合わせて少しの間考えこむ。すると彼女の方から、いいですよ、と一言もらえた。
「ありがとうございますっ!」
奏は丁寧にお辞儀をしながらお礼を述べた。
カップルはまた別のショーケースを見ながら移動していく。一連の流れを見ていた店員が笑顔でお包みいたしますねと言って席を離れてく。
「何やってるの?!奏ちゃん!」
桃花がソファから離れて、奏の腕にしがみつく。
「何って。……柚葉にと思って。……俺、コレ渡して柚葉に告白する。」
奏ちゃんは俯きながら頬紅くして喋ってるのに、何故だか一言一句ハッキリと聞こえた。だんだん奏の耳まで紅く染まっていくにつれ、口角まで上がっていく。きっと奏ちゃんは柚葉に告って上手くいく想像しているに違いない。
「ふざけんな!バカっ!」
桃花は店を飛び出した。
!柚葉!
今、もっとも会いたくない柚葉。なんで柚葉がここにいるの?桃花はブツブツと囁く。
「……なんでお前がいんだよ。いなくなればいいのに。」
その瞬間、桃花の怒りが暴走し力一杯に柚葉をつき飛ばした。どうせ人混みの中で転んで恥かけばいい、ぐらいに思っていた。しかし、柚葉はフラフラしながら車道へとバランスを崩していく。え……ゆず……
人混みで何も見えなかった。大きなクラクションの音がすると同時にドンっと鈍い音が響きわたる。歩いてる人達も立ち止まり一斉に車道を見る。人はどんどん増えて、人だかりができてしまって。キャーと叫び声や心配して呼びかける声は聞こえるけど柚葉の声じゃない。
確かめたいけど足が動かない。ただ怖くて怖くて、吐き気を催す。その場にいることができず、とうとう桃花は走り去った。




