第八話 柚葉視点
15歳3月25日 卒業
「栗原さん、ちょっといいかな?」
柚葉の病室を訪れたのは、小児科医の木下先生だ。
「僕の母校なんだけどね。栗原さんに良いかなと思って。雪国で田舎なんだけど。」
木下先生は母校のパンフレットと願書を柚葉の目の前に差し出した。ひょっとして同級生の木下君が相談したのかな、と懐かしい顔が浮かんだ。
柚葉はパンフレットを読んで、おや?と首をかしげる。この高校、地元じゃない、むしろ県外だ。読んでいくうちに寮があることに気づいた。きっと今から地元の高校に進学しても事故の事で周りの目があるから、柚葉のことを考えて木下先生は紹介してくれたのだと思った。
新天地で新しい生活か。柚葉は悩み抜いた上、願書をボールペンで書き込んだ。両親に伝えると、お母さんは反対した。それを止めたのがお父さんだった。
柚葉の受験する桜ヶ丘高校は願書と内申を提出後、リモートで入試試験と面接を行うことが出来たので病室から出る必要が無かった。一週間後、合格通知がメールで届いた。それから数日後、柚葉は病院を退院した。
中学校の卒業式の後、校長と担任の先生が柚葉の家にやって来た。柚葉は松葉杖で式に参加できたが、固辞したのだ。
「卒業おめでとう。」
柚葉は校長から卒業証書を受け取った。
校長と担任の先生が帰った後、柚葉は荷造りをした。明日から桜ヶ丘高校の寮に入ることが決まっていた。
私物が少ない柚葉はすぐに荷造りを終えた。
ひとつだけどうしても持っていく宝物を机から取り出した。あの時のピンクのリボンだ。桃花が切ってしまったので、もう髪は結えないけど。リボンをよく見ると、水色の糸で柚の絵が刺繍されていた。今まで気付かなかった。ありがとう、おばあちゃん。
インターホンが鳴って、お母さんが玄関に出た。
リビングに入ってきたのは奏だった。
制服を着たまま、息を切らしている。
何か言い出そうとした時、桃花が帰ってきた。
「奏ちゃん帰るの早いよ〜。もっとみんなでスマホ撮りたかった〜。」
桃花は奏の腕を引っ張ると、これから打ち上げがあると言った。奏は出かかっていた言葉を飲み込んで家を後にした。
翌朝早くに柚葉と両親が車に乗り込んだ。
奏が見送りに来た。隣には桃花がいる。
「じゃあ、桃花。留守番よろしくね。」
お母さんが言って、3人は出発した。
奏は一言も喋らなかったけど、ずっと泣きだしそうな顔をしていた。




