第五話 柚葉視点
15歳 ICUの病室
柚葉はただ真っ白の霧の中にいた。どこを見渡しても霧から抜け出せない。
ただ闇雲に歩いていると目の前に小川が見えた。小川の先に光が見える。
裸足だった柚葉は恐る恐る川を渡り光の指す方向へと歩き出した。
「そっちじゃないよ。柚葉」
祖母の声だ。柚葉が振り向くと祖母が立っていた。
おばあちゃん。
渡っていた川を引き返して柚葉は祖母の元へ向かった。
祖母は昔みたいに優しい笑顔で柚葉を抱きしめた。
柚葉の目から大粒の涙が溢れた。
「私、疲れちゃたよぅ。もうお家に帰りたくないよぅ。」
柚葉は祖母に今日あったこと全て打ち明けて、ワンワン泣いた。
このまま消え去りたいと祖母に伝える。
祖母は抱きしめてた手を緩めると、手を柚葉の頭の上において頑張ったねと撫でてくれた。
そしていつから持っていたのかわからなかったけどピンクのリボンで柚葉の髪を結った。
「柚葉、大丈夫だから。周りの人が柚葉を助けてくれるからね。」
祖母は柚葉の背中をポンと押した。
柚葉は祖母の元に戻りたかったけど、ピンクのリボンが引っ張り柚葉を連れていく。
祖母はそれをただただ笑顔で見送った。
目が覚めた柚葉は真っ白な天井を見つめていた。
体が動かない。
少し動かせた手を見ると、細い色々な管が何本もくっついていた。他にも額、胸にシールの様なものがいくつも貼られていた。ピッピッピと電子音が鳴っている。
ようやくここが病院であると理解した。
そのうち医師と看護師が病室に入ってきて瞳孔確認と声かけを行った。柚葉の気管には人工呼吸器が挿管されていてまともに話すことこともままならない。
目が覚めたかという声かけにゆっくり頷き、痛いところはという声かけに瞬きで返答した。
柚葉の症状は頭蓋底骨折、脚骨折その他に全身打撲により内臓損傷と記憶障害が挙げられた。
ICUの病室は基本的に面会謝絶で家族すら面会出来ない。
病室どころかベッドからも動けない柚葉は繰り返し寝て起きてをしながら何日も経過していった。
今日、再検査だったMR Iが終わり看護師に言われた。
「栗原さん、ベッドが変わりますよ。」
1月中旬に入ってようやく一般病床に移ることが出来た。
お父さんと病院の院長が知り合いだったこともあって、柚葉の病室は特別個室となる。広い病室にはベッドの他にソファや応接セットまである。
落ち着かなくて最初は慣れなかったけど、この病室は受験を控えた柚葉のための、院長の配慮だった。
柚葉の両親と院長が病室に入ってくる。お母さんは包帯姿の柚葉を見て、涙を流した。
柚葉は両親に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
次に院長がベッドの横に座る。
「記憶の検査だよ。先生と会話をしようね。」
院長と様々な会話をした。両親が持ってきた何枚かの写真がいつ、どこで、誰が、何をしたか等だった。
ある程度会話をすると、どうしても3つ話すことが出来ないことに気付く。
一つ目は12月24日の出来事
二つ目は桃花のこと
そして三つ目は奏のことだった。




