閑話 奏視点
15歳12月24日 パラドックス
2ヶ月時は遡って……10月中旬
2人の仲睦まじい姿に奏は愕然とする。
なんで柚葉と木下が?
「そう言うことで、じゃあ。」
木下が柚葉から離れたところを見計らって奏は柚葉に近づいた。
「木下と仲良かった?」
本当はもっと柚葉に質問攻めにしたいところだけど、言葉が浮かばない。玉砕する覚悟が持てない。
柚葉は桃花と違って男子にベタベタしない。それなのに柚葉はコッソリと木下と2人きりになり話をして教室に戻ってきた。これはそういうコトなんだろ。グッと堪えて柚葉の返事を待つ。
柚葉は言ってもいいかな、という顔をする。
奏の心は警鐘が鳴りっぱなしだ。
「文化祭のあと、担任にサプライズをしようてことになってるの。ほら私と木下君、文化祭の実行委員でしょ。」
奏は脱力してしまう。なんだそういうコト。
柚葉や奏のクラスの担任は今年結婚したばかりだ。文化祭の打ち上げに担任へ寄せ書きや花束を贈る手筈になっていた。そのサプライズを柚葉と木下が先導することになったのだ。
良かった。
……とは言えなかった。
文化祭までの間、柚葉と木下の距離が縮まる。
柚葉は気にしてない様子だったけど、木下が柚葉を見る瞳は熱を帯びて、奏が柚葉を見るソレと重なる。木下もそうなのか。奏は再び不安を拭い去ることが出来なくなった。
文化祭の打ち上げサプライズは成功した。担任が嬉し泣きをしたのだ。それにつられて皆んなから惜しみない拍手が送られる。
そんな中、奏の視線の先に2人が映る。木下が柚葉に耳打ちをしたのだ。たった5秒間だったけど柚葉と木下がお互い見つめ合って微笑んだ。
奏は拳を握り、柚葉に告白しようと決意したのだった。
――――――――
「ありがとうございました。」
奏が受け取った2つのプレゼントは同じラッピングが施されていたけど、小さく蛍光ペンで一つにはピンク、もう一つには水色でマークがされていた。
奏が間違えて渡さない様に店側の計らいだった。
ajittoを出て、プレゼントをリュックに入れる奏に物凄い速さで桃花が走り去っていく。
「桃花ー!待てって!桃花ー!」
奏が走って追いかけようとした時だった。
…………奏…………
一瞬、柚葉の声が聞こえた気がして立ち止まる。
振り向くとそこには人だかりが出来ていて、柚葉の姿はどこにもない。気のせいか、と思って桃花を追いかけようとしたが胸騒ぎがする。
もう一度振り返って人だかりに目をやると、車道の真ん中に今にも消えてしまいそうな柚葉が立っていた。
奏は無我夢中で人だかりの中に飛び込んだ。そうじゃなければいいと願いを込めて。
奏が見た柚葉は真っ赤な血に染まってうつ伏せで横たわっていた。すぐに横抱きにして声をかけても目が開かない。その刻も柚葉から夥しい血が流れて、奏と柚葉の周りには血だまりが出来上がっていく。
奏は自分の上着を脱ぎ柚葉にそれをかけて、ズボンのポケットからスマホを取り出す。
しかしスマホの画像が切り替わらない。何度もタップしても、待ち受けの水色のチューリップのままだ。
自分の両手が柚葉の血で血塗れになって、スマホが機能しないことに気付く。
「誰か!救急車を呼んでください!」
程なくして救急車のサイレンが聞こえた。
奏にとって時間が長く感じる様な、逆に時が止まってしまったかのような。そんな感覚に苛まれた。




