閑話 奏視点
15歳 初夏
「なぁ、裕介と佐々木が付き合い出したぞ。」
「えー!マジか。」
いい感じだったもんな。と話題が弾んでいく。中学3年の男子の話題となれば、スマゲーか女の子の話と決まっている。よく飽きないもんかと思うけどこれはこれで楽しい。奏がスマホを見ながら耳を傾けて聞いてると誰かがこう切り出す。
「うちの中学の女子だとトップ3は誰だと思う?」
男子たちがうーんと思案した後、やっぱり栗原だろとなる。奏からしてみれば当然聞き捨てならない問題だ。途端に背筋が伸びて、立派な姿勢で聞き耳をたてる。
「栗原はあの甘い感じがいいんだよ。」
「わかる。あのニコニコした上目遣いがたまらん。」
良かった。柚葉じゃない。柚葉は野郎たちにニコニコなんて絶対しない。奏が思った通り、彼らはやれ桃花と付き合いたいだの、ヤリたいだの妄想を膨らませて楽しんでいる。奏はホッとして、桃花と付き合うってお前ら苦労するぞと心の中で彼らにアドバイスを送ってやった。その時に。
「俺、柚葉ちゃんの方がいいと思うんだけど。」
今度は耳だけじゃなく、首が高速で横を向く。声の主を確認して、奏は瞬時に立ち上がる。
「柚葉ー!消しゴム貸して!」
大声で言ってしまった。柚葉は自分の席で友達と談笑していた。柚葉の席まで駆け寄って消しゴムを借りに行く。消しゴムなんて持ってるし、普通隣にいる奴に借りればいいだけだけど。何となくアイツらの視界に柚葉を入れたくない。
とくに木下、アイツは絶対ダメだ。声の主は木下だ。木下はモテるし、父親は医者だし、木下自身もサッカー部のキャプテンだ。奏は木下から柚葉が見えないように牽制した。
柚葉の席に行くと進路調査書の紙が目に入った。奏は迷いなく柚葉の進路調査書を覗き込む。第一志望校、藤の宮高校。
「柚葉は藤の宮高校に行くの?」
「……うん。友達みんな受けるって言うから。」
奏はてっきりもっと上の進学校に行くと思っていた。柚葉の学力ならそれが可能だったから。奏は自分の席に戻ると一度木下をチェックした。木下達はすでに違う話題で盛り上がっている。机の上に自分の進路調査書を取り出し第一志望校の空白に藤の宮高校と書き込んだ。
進路調査書を提出した日の放課後、奏は担任に職員室まで呼び出された。
「進路変えたのか?もう少し内心を上げるのと、テストの結果次第になるからな、努力が必要だぞ。」
「はい。これから塾にも通って頑張ります。」
家に帰って、夕食中に塾に通いたいと願い出ると、なぜか奏の両親は大喜びして。お祭り騒ぎになってしまったその日は父親がビールの瓶を2本空けた。




