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第8話 家政婦は知っていた

「視点を変えて、調査をしよう」

 そう宣言したのは、ヲタスケだ。警察署を出た後愛斗、リナ、ヲタスケの3人は一旦赤羽駅まで来てカフェに入ったのである。

「どういう事?」

 リナがつっこむ。

「僕、カグラ君が雇っていた家政婦さんから名刺もらってるんだよね」

「あのおばさんの?」

 リナが、念を押す。ヲタスケはうなずくと名刺を出す。名刺には「甘露寺かんろじ 京子きょうこ」と書かれていた。

「甘露寺さんは、僕とリナちゃんが初めて遊びに行った時転職を考えててね。僕が人材派遣会社の社員で、仕事の紹介をする仕事についてると話したら、就職の世話をして欲しいと言われて、紹介した経緯があるんだよ」

「そうだったんですね。でも、すでに警察が調べてるんじゃ」

 愛斗が話した。

「どうだろね? 警察はユメカちゃんが犯人ありきで捜査してるみたいだから。報道のされ方もそうだよね。どこまで真実に肉迫できるかわからないけど、甘露寺さんなら何か知ってると思ってさ」

 正直あまり期待できない。所詮素人探偵の限界だと、愛斗は感じる。

「早速電話してみるよ」

 ヲタスケが立ち上がり、一旦店の外に出た。やがて再び店内に戻る。

「連絡ついたよ。幸運だった」

 ヲタスケが、話した。

「今夜会えるそうなんだ。午後6時に京浜東北線の王子駅前のカフェで会う事になった」

 王子駅は赤羽駅からなら、京浜東北線で2駅だ。

「その前に1度ユメカちゃんのアパートからカグラさんの家まで歩いてみない? 何かわかるかもしれないし」

 提案したのはリナである。

「リナちゃん、彼女のアパート知ってるの?」

 仰天口調でヲタスケが聞く。

「別にあたしから聞いたわけじゃない。ユメカちゃん福島から出てきて、東京にお友達がいないそうなの。あたしが女だからだろうけど今度一緒に会いましょうって言われて、アパートで会ったわけ」

「でも、僕らも行っていいのかな?」

 愛斗はそう念を押す。

「ユメカちゃんが捕まってから、すでにネットで晒されてるから」

 剣山でも踏んだような顔で、リナが話した。それから3人はタクシーでカグラの屋敷に向かう。

 屋敷の周辺には報道関係者や野次馬の姿がある。タクシーを降り、リナに先導される形でユメカの住居へと歩いた。

 カグラ邸からさらに駅から離れており、ケイゴの話した通り、途中で防犯カメラが映している場所はない。

 アパートの方も野次馬やマスメディアの姿があった。古びた建物で、知らなかったらアイドルが住んでいたとはわからぬだろう。

 アパートにも見たところ防犯カメラは設置されていない。当然警察も調べたのだろう。ケイゴの話は正しかった。




 一旦それぞれ帰宅した3人は、その日の午後6時に王子駅前のカフェに集まる。そこへ甘露寺京子が現れた。

 60代ぐらいの女性だ。白い帽子をかぶり、メガネをかけている。

「ご無沙汰してます」

 ヲタスケが立ち上がり、お辞儀をする。

「こちらこそご無沙汰しちゃって」

 京子も深くお辞儀をする。

「それにしても暑いわね。あたしが子供の頃は、ここまでじゃなかったのに」

「地球熱中化のせいですね」

 ヲタスケが、答える。

「植樹して気を増やすとか、二酸化炭素の排出量が少ない地熱発電に切り替えるとかしませんと」

「確かに今は、どこもかしこも舗装してて、夏場はまるでフライパンの上にいるみたいだしね。それはともかくあなたも元気そうで良かったわ。あなたに紹介していただいたおかげで家政婦の新しい仕事も見つかったし」

「新しい職場の雰囲気はどうですか?」

 ヲタスケが、質問した。

「おかげ様で、居心地いいわ。色々ある事はあるけど、この年齢で雇ってくれてありがたいよ。年金も少ないからね。政治家はもっと年寄りの生活を考えて欲しいもんだよ。自分達だけいっぱい給料もらってさ」

「そうですよね。甘露寺さん、とりあえず席に落ち着いて、何か注文してください。奢りますから。今日はわざわざ来ていただいたんだし」

「あら、いいわよ! そのぐらい自分で出すから」

 結局京子はアイスコーヒーを注文した。

「あたしも本当は死ぬまで神楽のお坊ちゃんの千太せんたさんの所で働きたかったわよ。でもイマジナリー・フレンドでしたっけ? あんなの見るようになったら気味悪くなっちゃって」

「そう思われるのも無理ないです。カグラ君もかわいそうですが」

「そうなのよ。亡くなったお父様の兆太ちょうたさんが厳しい方でね。昔はあんな男性珍しくなかったけど」

「そうでしょうね」

「でも本当神楽のお坊ちゃんも殺されちゃってかわいそうにね」

「その話なんですが、僕らは警察と違う見解を持ってまして。ユメカちゃんは冤罪だと考えているんです」

 ヲタスケの発言に京子はあっけにとられた顔をして、開いた口をピンポン玉のように丸くする。

「仮にユメカちゃんが犯人でないなら、一体誰だと思います? 甘露寺さんは長年神楽家で家政婦をやってましたよね。カグラ君を殺したい人物に心当たりはなかったですか?」

「そういえば、あなたに話すの初めてだけど、お坊ちゃんの亡くなられたお父様、実は隠し子の娘さんがいたのよ」

 京子は声をひそめながら、左右を見渡す。

「隠し子ですか?」

「そうなのよ。お坊ちゃんのお父様が亡くなった時、遺産の半分はお坊ちゃんに、もう半分は、その娘さんに相続されたそうなのよ。ところがその娘さん金遣いが荒くてね。あっという間に使い果たして、お坊ちゃんのお屋敷に無心に来てたの。最初はお坊ちゃんもお金を渡してたんだけど、あたしが家政婦を辞める時には『今度来たら追い返す』って言ってたわ」

「その娘さんが犯人って考えてるんですか?」

 横から愛斗が聞いてみた。

「わからないわ。ユメカって子が犯人でないなら誰かって考えた時思いついただけだから」

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