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第5話 犯人はあの人?

ネットのニュースでユメカの逮捕を知らされた時は、呆然自失の愛斗だったが、慌てて教えてもらったケイゴのスマホに電話した。

「どうして? なんでユメカちゃんが逮捕されたの!?」

 愛斗はケイゴに質問する。むしろ悲鳴をあげてたという方が近かったかもしれない。

「捜査の結果犯行のあった月曜日の昼12時半頃に、ユメカらしい女性がカグラさんの屋敷に訪れて、中からカグラさんが招き入れるのを複数の方が目撃してるんです」

「でも、おかしいでしょう!? ユメカちゃんはカグラさんにストーカーされてるんですよ!  そもそも何で、カグラさんの家を知っているんですか?」

「以前ユメカちゃんはカグラさんから住所の入った名刺を押しつけられてるんですけど、それを今でも所持してたんです」

 ケイゴは続ける。

「ユメカちゃんは母1人、娘1人の母子家庭なんですが、お母さんが病気がちで、ユメカちゃんも売れてないし、うちの上司は金銭目的でカグラ家を訪れたと考えてます」

「資金援助を頼みに行ったって事?」

「上司はそう推理してます。無論自分は、そう考えてないですよ。ユメカちゃんも否定してます。ただ彼女にとって不利な目撃談がもう1つあって、カグラさんの屋敷からなくなっていたローレックスを質屋に持ってきた若い女性がいるんですが、質屋の主人の話だと、ユメカちゃんそっくりだったと話してまして」

「質屋の防犯カメラに映ってたの?」

「それが昔ながらの質屋で防犯カメラはないんですよ。なくなったローレックスにはカグラさんのイニシャルが掘り込まれてるんですけど、質屋が預かったローレックスにもイニシャルが入ってました」

 こんなにも目撃談や証拠があるのに愕然とした。

「それからさらに付け加えると、現場から発見されたイヤリングから、ユメカちゃんの指紋が出ました。彼女の話では、日曜の握手会で紛失したと言ってます」

 ダメ押しのような言葉の刃が胸に刺さる。

「ユメカちゃんに面会したい」

「それなら赤羽警察暑の留置所に来てください。ただし今日は8月1日の木曜日なので、4日後の8月5日月曜日に来てください。逮捕されたのが今日なので、面会は4日後からになりますので」

「了解」

 力なく、愛斗は答える。

「そういえば日本刀からは指紋は出たの?」

「出ませんでした。多分軍手をはめてたんだと思います」

「ユメカちゃんは月曜にどこにいたって主張してるの?」

「その日はオフで、1日部屋に引きこもってたそうです。彼女も実はカグラさんの家の近くに住んでるんですけど、途中防犯カメラに映るような場所はないので、その線からユメカちゃんの行動を洗い出す事はできません。昼の12時30分頃は、本人曰く昼寝をしてたそうです。1人暮らしですから証人はいません」

「やっぱり僕はムノさんが気になります」

 愛斗がそう切り出した。

「ムノさん服装も靴も持ってたバッグも腕時計も高そうな物ばかりで、お金に困ってなさげでしたよ。カグラさんを殺したうえに、ローレックスを盗むなんて」

 ケイゴがそう回答する。

「ムノさんが犯人と考えてるわけじゃないです。ユメカちゃんがイベントでイヤリングを落としたなら、握手会に来てた中の誰かが拾って、彼女を犯人に仕立て上げようとしたんじゃないかと思ったんです」

 愛斗は、続けた。

「ビッグサイトに来てた人達を調べれば、犯人に通じる何かが見つかるんじゃないかって。ムノさんは、特によく握手会に来てましたし」

「気持ちはわかりますが、うちの上司は犯人をユメカちゃんだと断定していて、覆りそうにありません」

 石垣よりも重い口調で、ケイゴがそう告げた。

「自分は無論ユメカちゃんが犯人だなんて思ってないので意見を具申したのですが、相手にされませんでした。警察ってのは残念だけど、そういう組織です」

 その言葉に、青汁よりも苦いものがにじんでいる。

「一般のサラリーマンも似たようなもんです。社畜ですから」

 愛斗は、自虐の言葉を吐く。

「ただ上司の考えも、わからなくもないんです。ユメカちゃんにとって不利な証拠が揃いすぎていますから。ユメカちゃん以外の人物が犯人だとして、よくもまあ、彼女にアリバイのない日を狙って犯行に及んだものだと思います」

「それに関して、不思議な点はないです。日曜のビッグサイトのイベントで『明日の月曜日はオフ』だって喋ってました。『1日引きこもる予定だ』とも言ってたし。その場にいた人間は、みんな聞いてたはずです」

 説明したのは愛斗である。

「隣のラブミちゃんの列に並んでいたファンの人達も、近くにいた警備員や清掃員も、そこにいた人が友達や家族に伝えたり、SNSに書いたりすれば、さらにそれを知ってる人は増えたでしょう」

 ラブミは『2020』のセンターをつとめる主要メンバーの1人である。

「確かにおっしゃる通りですね」

「実は1人疑わしい方がいるんです」

 ケイゴは巨大な岩石よりもヘビーな語調になりはじめる。

「誰ですか?」

「リナさんです」

 意外な名前にびっくりする。

「でも彼女には、アリバイがあるんじゃ?」

「リナさんが犯行時刻に行っていたレストランはチェーン店で、彼女のお父さんが経営してるんです。店員さんも友人も、口裏を合わせることは可能です。後防犯カメラに映っていたリナさんの画像ですが後ろ向きのボンヤリとしたもので、正直そこまで彼女だと断定はできませんでした」

 頭を殴られたようなショックであった。

「でもリナさんには動機がないでしょう!? お金には困ってませんし」

「お金に困ってはいないでしょう。ただ彼女はユメカちゃんと『2020』、いや、アイドルそのものを崇拝してました。ストーカー行為をしたカグラさんにも強い怒りを向けていました」

「だったらなぜ僕らと一緒にカグラ家に行ったの?」

「カグラ家の様子を調べるためかもしれません」

 そんなふうに解説されると、もしかしたらリナが犯人ではないかとも思えてくる。

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