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界放機関  作者: ひろ
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村上修治①

7月31日、大学のゼミの打ち上げで居酒屋に来ていた。普通の飲み会なら断っていたが、春学期締め打ち上げだと言われたので参加することにした。打ち上げだけは行くようにしている。

隣の後藤から隠れるようにスマホを見ると、ラストオーダーまであと10分もない。いつも場の盛り上げ役の後藤が隣なのは落ち着かなかったが、それも終わりが近いと思うと少しホッとした。後藤は音楽サークルでも場を盛り上げる役割だと聞いていたが、今日はなぜかテーブルの隅にいた。


テーブルの中央では就職が決まり、卒論を残しただけの先輩と同級生が就職について盛り上がっているのが見えた。テーブルの端にいるので周囲の騒音で内容はわからないが、どうせ3年から就職活動が始まることについて話しているのだろう。

自分には関係ない話だ。そう思っていたら後藤から唐突に話しかけられた。

「なあ 村上ってさ、コネクターなんでしょ?」

心臓が止まるかと思った。コネクターに所属しているのは事実だが、周りに話したことはない。

「…なんで俺がコネクターになるんだよ」

驚きのあまり沈黙してしまったが、精一杯ごまかした。

その顔をみて少しにやつきながら後藤は返す。

「その反応は図星でしょ~。まあ、理由を言うならいつもノリが悪いことかな。村上って、いつもゼミの飲み会とか集まりとかあんま来ないじゃん。」

「飲み会とかが苦手なんだよ。そうじゃなくてもサークルとかあるだろ。」

言ってからしまったと思った。後藤がそこを見逃すはずがない。

「へ~、じゃあサークルとか入ってるの?あんまり話は聞かないし、ゼミとか講義終わりはすぐ大学出ていくよね?」とにやけ面で深く踏み込んでくる。

これだから後藤はやりにくい。いつもふざけているのに突然、核心を突いてくる。

「バイトだよ、バイト…。なあ、もういいだろ。俺はコネクターに入ってないし、関係者でもない。何を言われてもわからないんだ。」

そう言い切ったとき、テーブルの中央からラストオーダーはどうするかと声を掛けられた。後藤がテーブルの中央に連れていかれたことで話が断ち切られ、正直、安心した。


打ち上げは、教授の春学期の締めくくりとゼミ代表の挨拶でお開きとなった。後藤はラストオーダーからはずっと輪の中心にいてこちらに来る気配はなかった。

二次会は行かず、安心して帰路についたとき後ろからまた後藤から話しかけられてしまった。

「また今度な、楽しみにしといてね~」

驚いて振り返るが後藤はもう二次会に行くグループに混ざっている。

「春学期が終わったのにまた今度とはどういうことなんだ。なにを楽しみにしろってんだよ。」とつぶやくが当然、誰も返事はしてくれない。

酔っ払い悪ノリだと思った。どこか確証があるような口ぶりだったが、どうせ夏休みに入るんだし、当分会うことはない。来週にはこのことは忘れられるだろう。そう思っていた。だけど、胸のどこかがざわついていたことはなぜか忘れられそうになかった。


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