第六十九章:再臨
沈黙の三年間。世界が日本の自滅を待つ間、崇史とα-GRIDは、この国を神々の領域へと引き上げていた。
革命から、三年後。
A、国防総省。
薄暗い危機管理センターの巨大なスクリーンに、衛星写真が映し出されていた。
「――以上が、現在の日本の状況です」
若い女性分析官が緊張した面持ちで報告を終えた。
その場にいた軍の最高幹部であるマクガバン将軍は、深く椅子に座ったまま、苦虫を噛み潰したような顔で黙り込んでいた。
三年前。
日本でΩ(オメガ)を名乗る正体不明の男がクーデターを起こした時、彼らは笑っていた。
『エネルギーも食料も100%輸入に頼る、あの島国が世界を敵に回して生き残れるはずがない』
『何もしなくても数ヶ月後には飢餓と内乱で自滅するだろう』
それがA国の、そして世界の共通認識だった。
だが、その予測は歴史上最大の「誤算」となった。
「…信じられん」
将軍が唸るように言った。
「海上封鎖は完璧なはずだ。それなのになぜ、日本の電力供給量は革命前よりも増大しているんだ!?」
分析官が震える手でコンソールを操作する。
「ジェネラル…。まず、日本はエネルギー革命を成し遂げました」
スクリーンに日本近海の深海の映像が映し出される。そこには無数の自律型ドローンが、海底に眠る「燃える氷」…メタンハイドレートを驚異的な効率で採掘していた。
「さらに信じがたいことに…彼らは安全な**『小型核融合炉』を完全に実用化しています。我々があと二十年はかかると見ていた技術を…」
「それだけではありません」
分析官は息を継ぐ間もなく次のデータを表示する。
「食料革命です。衛星写真が日本全土で巨大なドーム型施設の急激な増加を捉えています」
スクリーンが日本の地方都市の映像に切り替わる。そこには銀色に輝く巨大な「完全自動植物工場」が何十棟も建設されていた。
「AIが遺伝子レベルで設計した『AIデザイン作物』**が、従来の数十倍の速度で栽培されている模様です。日本は、もう飢えてはいません」
「…ふざけるな!その工場を、ドローンを、一体何で作っているんだ!」
将軍の一人が机を叩いて叫んだ。
「…それが最大の問題です。ジェネラル。彼らは新素材革命も起こしていました」
分析官は最後のデータをスクリーンに映した。
それは先日、日本のEEZに偵察のため侵入を試みた、最新鋭のステルス無人偵察機が最後に送ってきた映像だった。
日本の排他的経済水域の境界線上。
そこに突如として海の中から巨大な黒い「島」が姿を現した。
「鉄の数倍の強度を持ちながらアルミニウムより軽く、自己修復機能さえも持つ未知の新素材…おそらくは『グラフェン・セラミック複合材』。それで造られた、浮島レールガン要塞です。偵察機はこれに一瞬で…」
映像はそこで途切れていた。
将軍が呆然と砂嵐になったスクリーンを見つめる。
分析官が震える声でその「答え」を提示した。
「全ては…α-GRIDです。崇史が作り出した、あの新しいAI。それは単なる計算速度の向上だけではありませんでした…。『人類が数百年かかるであろう試行錯誤と発見を、わずか数日でシミュレートし、最適解を導き出す』…まさに、神の頭脳です。彼らはその力でエネルギー問題を解決し、飢餓を克服し、未知の新素材でこの国を巨大な要塞へと作り変えました。海の中は、量子ネットワークで結ばれた無数の水中ドローンが、神の神経網のように張り巡らされています…」
その時だった。
センターに新たな緊急速報が飛び込んできた。
「緊急事態!日本の種子島宇宙センターよりロケットの打ち上げを確認!すでに十数機が次々と軌道上へ…!」
それは日本が独自の衛星網を構築し始めたことを意味していた。
マクガバン将軍は天を仰いだ。
「…我々は眠れる獅子を起こしてしまったのではない」
彼は絶望的な声で呟いた。
「我々が沈黙していたこの三年間で、彼らは我々を置き去りにしたのだ」
その結果、日本は世界中のどの国も理解できない、異次元の科学力を持つ、「魔法の要塞国家」へと変貌を遂げた。
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