第六章:対面
白いシーツの下の、冷たい真実。崇史の世界が、音を立てて崩れ落ちる。
2032年6月25日、金曜日 17時ごろ。
数時間後。崇史は霊安室の前に立っていた。
全身の震えが止まらない。
ドアノブを握る手が汗で滑る。
このドアの向こうに愛する妻と娘がいる。
しかし、その姿はもう二度と笑顔を向けてはくれない。
重い扉をゆっくりと押し開ける。
ひんやりとした空気が肌を刺す。
そこにあったのは、白いシーツに覆われた二つの小さな隆起。
崇史はまるで夢遊病者のように一歩ずつ、その隆起へと近づいていく。
そして、震える手でそっとシーツをめくる。
目に飛び込んできたのは、妻の、そして娘の、安らかな……しかし、もはや温かさのない顔だった。
肌は冷たく、血の気が失せ、まるで作り物のようだった。
最愛の二人だ。
いつも隣にいて、笑顔を向けてくれた大切な存在。
それが、今はただそこに横たわっている。
(嘘だ…)
唇から漏れたのは、かろうじて音になっただけの乾いた囁き。
信じられない。理解できない。なぜ、こんなことが。
昨日の夜まではそこに確かに笑顔があった。未来があった。温かい家庭があった。
それがたった一晩でべて消え去った。
膝から崩れ落ちた。冷たい床に手をつき、顔を伏せる。
喉の奥から言葉にならない嗚咽が込み上げてくる。
息ができないほどの絶望が全身を蝕む。
「なぜ……なぜだ……!」 声が枯れるまで叫んだ。
しかし、誰も答えない。ただ、冷たい沈黙だけが、崇史を包み込んだ。
涙がとめどなく溢れ、シーツを濡らす。
世界が、崩壊した。
彼の人生は、この瞬間、完全に終わったのだ。
その後の記憶は、白く途切れている。
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