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第五十一章:王の謁見

「俺は、一度死んだ」――崇史が語る世界の『理』と、常識を超えた神の力。一条は、その狂気と覚悟に、日本の未来を賭ける。


 2033年3月5日、土曜日。夜。

赤坂。雪解けの冷たい雨が降る夜だった。

香が手配した車を降りた崇史は、老舗料亭の、格式高い門をくぐった。案内されたのは、庭園の奥にある、離れの個室。部屋には、静かに、白檀の香りが漂っていた。

部屋の中央に、一人の男が座っていた。

防衛審議官、一条 圭。

その鋭い眼光は、崇史が部屋に入ってきた瞬間から、じっと、彼の顔を見つめていた。

「君が、今、世間を騒がせている『ハーフフェイス』か」

一条の声は、落ち着いていたが、鋼のような硬い意志を感じさせた。

崇史は、答える前に、まず、自分の半面を外した。

その顔を見て、一条の目が、わずかに見開かれる。

「…やはり、君だったか。久我 崇史君」

「なぜ、俺だと?」

「君が開発したβグリッド。あの完璧なシステムが、コンペで不採用になり、その直後、君が消息を絶った。そして、入れ替わるように、この『ハーフフェイス』が現れた。…繋がらない方が、不自然だろう」

一条は、全てを理解した上で、ここに座っている。崇史は、改めて、目の前の男の器の大きさを感じた。

「では、単刀直入に聞こう」一条が、続けた。「君の目的は、なんだ?」

崇史は、一条の人物像を信じ、自分の計画の第一段階を、静かに語り始めた。

「メディアをジャックし、全世界に向けて、宣言する。『これより、日本は、新たな独立を果たす』と」

「…なんだと?」

「帰化人を含む、全ての外国人を、国外へ強制退去させる。そして、国境を完全に封鎖し、日本は、鎖国する。そのためには、あなたの力と、自衛隊の力が必要なんだ」

「正気か、君は!」一条の声が、荒々しくなる。「そんなことをすれば、日本は世界から完全に孤立し、経済は崩壊、国民は飢えることになる!内乱が起き、国が二つに割れるぞ!」

「ああ、そうなるだろうな。だが、それも、計画のうちだ」

崇史は、動じることなく、続けた。

「一条さん、俺はこの数カ月、単にS国の拠点を潰して回ってただけではない。その拠点に残っている通信網と、俺が開発した**『AURA』を接続し、βグリッドに匹敵するAIを構築していた。そして、この先の未来を、何兆通りもシミュレートした」

崇史は、静かに、しかし、有無を言わせぬ力強さで、語り始める。

「このまま何もしなければ、S国による静かなる侵略で、日本という国は、10年以内に、音もなく消滅する。それは、もう、避けられない未来だ」

「だが、たった一つだけ、日本が生き残る道があった。それは、『制御された、破滅』だ」

一条は、ただ、黙って、崇史の言葉を聞いていた。

「話は分かった。だが、そんなことが本当にできるとは思えない。それに、私はまだ、お前を信じたわけではない。とても、今の話だけで協力することはできん!」

一条は、少し声を荒げた。

しばらく沈黙があり、少し間をおいて、崇史が話し出す。

「一条さん、この世界を、あなたはどう見てる?」

「…どう、見てるか、だと?」

「そうだ。あなたには、この世界がどう映ってる?」

一条は、少し苛立ったように眉をひそめたが、そのいら立ちを押し込め、ふと思い出すように話し始めた。

…私も、戦ってきたつもりだった。この国を、内側から食い破る者たちと…。だが、ダメだった。私の力では、この巨大な腐敗の前では、あまりにも、無力だった…。私が正攻法で進めば進むほど、日本の寿命が、静かに削られていくくだけだと、もう、分かっているんだ。

「そうか」崇史は、静かに頷いた。「だが、俺が聞きたいのは、そのことじゃない」

「なんだと!」

「俺は、この世界の『ことわり』を理解した。この世界の、仕組みそのものをだ」

「それは私も、少なからず理解しているつもりだ!だが、その仕組みを壊せるほど、この世界は単純ではない!わかったような口を…」

「俺は、一度死んだ」

崇史の言葉が、一条のセリフに、鋭くかぶさった。

「…君の履歴を見れば、分かることだ」

「違う。社会的に、じゃない。俺は、本当に一度死んで、そして、この世界の『管理者』に会った」

一条は、怪訝そうに眉をひそめる。(何を言い出すんだ、こいつは…)**

「俺たちは、この狭い地球に押し込められ、なぜ生かされているのかも知らないまま、太古の昔から、この地獄を繰り返し味わってきた。この世は、本当の意味での『地獄』だったんだ」

「回りくどい!」

「いいや、あなたは、何も分かっていない」

崇史は、静かに立ち上がった。

「俺は、管理者から、力を与えられた。だから、あなたの迷いを、今、ここで断ち切ってやるよ」

崇史はそう言うと、懐の拳銃を抜き、その銃口を、一条の眉間に、真っ直ぐに向けた。

それまで一条の両脇で人形のように立っていたSPが、即座に反応し、崇史に銃を向ける!

「何をしてる!!撃て!!」

崇史が、部屋に響き渡る声で叫んだ。

「撃たないと、一条は、ここで死ぬことになるぞ!!」

そう言って、彼がトリガーに手を掛けた、その瞬間。SPの一人が、引き金を引いた!


即座に、『クロノスタシス』が発動し、世界が凍てつく。

崇史は、空中で静止する弾丸の横を、ゆっくりと歩き、SPの一人の前に立った。SPも、一条も、崇史が目の前から消えたことさえ、認識できていない。

崇史は、SPの首筋に、的確に手刀を叩き込んだ。

『クロノスタシス』が、緩やかに解除される。

SPが、声もなく床に崩れ落ちた。もう一人のSPが、驚愕に目を見開くが、崇史は、すでに、その男の背後に回り込んでいた。

「どうかな?俺は、死ねない。そして、あんたたちの常識は、俺には、一切、通用しない」

一条は、今、目の前で起こったことが、理解できずに、ただ呆然としている。

「…何をした。どういう、ことだ…」

「言っただろ。俺は、一度死んで、この世界の管理者とやらに、この死ねない能力を授かったんだ」

崇史は、そこから、自分の能力、そして、計画の本当の目的を、一条に語り始めた。


(ナレーション)

崇史は語る。メディアジャックによる、日本独立宣言。鎖国。核武装。その過程で起こるであろう、ありとあらゆる問題を、彼の『神の力』で、どうやって乗り越えていくのかを。そして、その先にある、あまりにも壮大な、世界の終わりまでのシナリオを。


全てを聞き終えた一条は、しばらく、固く、目を閉じていた。やがて、彼は、ゆっくりと目を開けると、深いため息と共に、こう言った。

「…なんと…。それが、君の、本当の計画なのか…」

一条は、立ち上がり、窓の外の、雨に濡れる庭園を、じっと見つめた。

そして、彼は、崇史の方を振り返ると、静かに、しかし、確かな覚悟を持って、言った。

「…わかった。私にできることなら、協力しよう」

二人の、日本を滅ぼしかねない、そして、あるいは、救うかもしれない、危険な契約が、この時、静かに結ばれた。


「感謝する」

崇史は短くそう言うと、すぐに次の指示を出した。

「だが、一条さん。あんた達にもやってもらわなければならない、重要なことがある」

「なんだね?」

「俺の存在と、この能力は、絶対に外部に漏らすな。特に、海外にはだ」

崇史の言葉に、一条が頷く。

「これから日本国内では、俺が引き起こす、様々な『浄化』作戦が始まるだろう。だが、海外への公式発表は、こうだ。『新政府は、国内の反体制派による、大規模なテロや暴動を、いまだ完全に鎮圧できずにいる』とな」

一条は、すぐにその意図を理解した。

「…なるほど。『Ω』という、規格外の戦力の存在を隠し、海外諸国に、日本の現状を『内乱状態』だと誤認させる、と。そうすれば、他国も迂闊には手を出せん、か」

「そうだ。俺という『切り札』は、最後の瞬間まで隠しておく。…そういうことだ、香」

崇史が、部屋の入り口に向かってそう言うと、音もなく襖が開き、そこに香が静かに立っていた。

一条は、驚くでもなく、ただ「やはり、いたのか」とだけ呟いた。

「報道規制と情報操作は、お前の仕事だ。できるな?」

崇史に問われ、香は、静かに、しかし力強く頷いた。

「ええ。任せて。ゴシップ好きの海外メディアが、喜んで飛びつくような『混乱した日本』の姿を、私が作り上げてあげるわ」

こうして、世界を欺くための、壮大な情報戦の幕が、静かに上がった。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

今回の話はいかがでしたでしょうか?

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