第四十九章:都市伝説
英雄か、破壊者か。世論が割れる中、崇史の存在は、一条と香が守ろうとしてきた、危ういバランスを崩し始める。
2033年2月10日、木曜日。
崇史が、その「大掃除」を始めてから、半年近くが過ぎようとしていた。
そして、日本は、静かに、だが、確実に、変わり始めていた。
<ニュース番組『深層リポート』より>
「…ええ、不可解なことなんですよ。警察庁の発表によりますと、昨年8月以降、国内における外国人犯罪組織、特にS国をバックに持つとされるグループの活動が、全国的に、急速に沈静化している、と。実に、半年間で、70以上の拠点が、一夜にして、その機能を停止。構成員たちの多くは、自主的に本国へ帰国、あるいは、行方不明になっているそうです。警察は、大規模な内部抗争の可能性を示唆していますが、これほどの規模の抗争で、死者や、大規模な銃撃戦の痕跡が、ほとんど報告されていない。専門家も、首を傾げるばかりです…」
<ネット掲示板『UNDERGROUND』より>
No.184 名無しの憂国者
またやったぞ、「ハーフフェイス」が。
今度は、六本木の、S国の高官が経営してるっていう、あの高級クラブだ。
俺のツレがそこの清掃員やってんだけど、朝、行ってみたら、中の連中が、全員、手足の骨をめちゃくちゃに折られて、綺麗に並べられて気絶してたらしい。
警察も来てたけど、すぐに『上の人間』が出てきて、緘口令が敷かれたってよ。
マジで、誰なんだよ、ハーフフェイス…。
No.189 名無しの憂国者
ヒーローだろ。
警察も、政府も、見て見ぬフリしてた、日本のガンを、たった一人で掃除してくれてるんだ。
俺は、全力で、ハーフフェイスを支持する。
都内某所。ホテルのバーラウンジ。
二人の男女が、人目を忍ぶように、小さな声で会話していた。
一条と、香だった。
「…彼の行動は、もはや我々の手には負えん」
一条が、疲れた顔で、グラスの中の氷を揺らす。
「S国政府は、連日、日本政府に、この正体不明のテロリストを、早急に捕えろと、強い圧力をかけてきている。だが、彼を捕まえるどころか、その正体さえ、我々は掴めていない」
「ですが」と、香が、静かに口を挟む。「彼の行動に、賛同する者も、増え始めています。警察内部にも、自衛隊内部にもね。腐りきった上層部に、反旗を翻す機会を、彼が作ってくれるのではないか、と期待している者たちが」
「…だからこそ、危険なのだよ、香君」
一条は、深く、ため息をついた。「彼は、我々が、長年、保ってきた、危ういバランスそのものを、壊そうとしている。彼の存在が、日本を二つに割る、内乱の引き金になりかねん」
香は、何も答えなかった。ただ、窓の外の、東京の夜景を、冷たい目で見つめていた。
その頃、崇史は、都内の安アパートの一室にいた。
床には、日本全国の地図が広げられ、S国の関連施設と思われる場所に、無数の×印がつけられている。
彼は、全ての装備を身に着けたまま、『AURA』のスクリーンを、静かに見つめていた。
スクリーンには、次の「掃除」場所の座標と、そして、一つの名前が表示されている。
『一条 圭 - 防衛審議官』
崇史は、その名前を、指で、そっと撫でた。
(…そろそろ、顔を拝ませてもらうか)
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