第四十章:解けない問い
包囲された公園、静かな夜。崇史は、敵の不可解な執着の理由を考察する。目的はβグリッドか、それとも…。
2032年8月7日、土曜日。午前1時30分ごろ。
崇史は、中央公園の比較的開けた場所のベンチに腰を下ろした。
かすかに**『クロノスタシス』**を感じる。弱い。だが、途切れることなく持続している。
(俺の正確な位置は掴めていないが、この公園を包囲している、か)
この辺りには、都合よく監視カメラもない。追手は、公園の出入り口を固めているに違いなかった。
ベンチに深く座ると、どっと眠気が襲ってきた。慣れない状況に、身体と心が全くついてきていない。能力のおかげか、感情が鈍くなっているおかげで、何とか精神が保たれている気がした。普通の自分なら、とっくに壊れていただろう。
そこで、崇史の思考に、一つの解せない疑問が浮かび上がった。
(俺は今日、二度も奴らの前で、この力を使った。特に、バーでの出来事は、監視カメラにはっきりと映っているはずだ。俺の動きは、普通ではとても理解できないし、理解したとしたら勝ち目が無いことがわかるはずだ。それなのに、なぜ、まだ執拗に追ってくる?)
思考を巡らせるうち、一つの可能性に行き当たった。
(…βグリッドか。川越が持ち出した、あのデータ。あれを起動するためのパスワードが、奴らの目的…?)
その仮説は、全ての辻褄が合うように思えた。だが、すぐに新たな矛盾に突き当たる。
(いや、待て。そのためには、奴らは俺が『久我 崇史』だと分かっていなければならない。だが、今の俺は顔を隠している…)
崇史の思考が、可能性を模索する。
(…ひょっとしたら、AIによる画像解析で、骨格などから特定された、という可能性もあるのか?だとしても…)
(たとえ俺の正体がバレていて、パスワードが目的だとしても、なぜ勝ち目のない戦闘を仕掛けてくる?もっと別のやり方があるはずだ。分からない。今は、考えても答えは出ないだろう。)
(…もう少し、眠ろう)
崇史は目を閉じ、ベンチの背もたれに体を預けた。
夜の公園は、静かだった。ただ、耳元で、虫の羽音だけが、やけに大きく響いていた。
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