第三十九章:不滅の確信
恐怖を捨て、自らの不死性を完全に理解した崇史。破壊者の思考は、すでに常人の理解を超えた領域に達していた。
2032年8月7日、土曜日。午前1時ごろ。
崇史は、カビ臭いビジネスホテルを後にした。背後には、S国の追跡者の気配が、粘りつくように張り付いている。
(どうする…?)
崇史の人間離れした思考が、高速で回転を始める。
(このまま、奴らを引き連れて香に会うわけにはいかない。どこかで、完全に撒く必要がある。だが、どうやって?)
敵は、ただのチンピラではない。訓練を受けたプロだ。監視カメラのネットワークも、彼らは利用できるはず。普通の人間なら、逃げ切ることは、まず不可能だろう。
崇史の頭の奥底で、何か途方もない作戦が、閃光のように生まれかけた。だが、その輪郭はまだ、はっきりと形にならない。
(待てよ。落ち着け。もう一度、俺に出来ることを、よく考えろ)
彼は、さっきのホテルでの自分の行動を、もう一度、頭の中で再生した。
(俺は、敵がすぐそこにいると分かっていながら、なぜ、眠ることができたんだ?どうして、あんなに落ち着いていられた?)
その問いの答えにたどり着いた瞬間、彼の思考を覆っていた霧が、すっと晴れた。
(…ああ、そうか)
答えは、驚くほど単純だった。
(俺は、もう『死なない』んだ)
そうだ。あのT字路の事故。キッチンでの包丁。アジトでの銃弾。この力は、俺という存在から、『死』という結末を奪い去った。その絶対的な事実が、無意識のうちに、彼の行動から恐怖を奪い、大胆な選択を可能にさせていたのだ。
(ならば、取るべき手段は、一つしかない)
崇史は、自分の切り札を、今、完全に理解した。
ふと顔を上げると、いつの間にか、目の前に巨大な都庁のビルがそびえ立っていた。彼は、周りを見渡す。夜が更けたオフィス街は、車も、人も、ほとんどいない。静まり返った、秩序の街。
(…ダメだ。この静寂と秩序の中では、俺の作戦は実行できない。俺に必要なのは、圧倒的な『ノイズ』――全てを飲み込むほどの人の波と、予測不可能な混沌だ)
(…ならば、今はその時まで待つしかないか)
崇史は、できるだけ監視カメラが少ないルートを選びながら、都庁のすぐ隣にある中央公園へと、静かに足を進めた。
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