第三章:深淵からの声
崇史が襲われ、意識が闇へと沈んでいく中、彼は奇妙な夢を見る!
2032年6月22日、火曜日。20時00分ごろ。
崇史が襲われ、意識が闇へと沈んでいく中、彼は夢を見ていた。
どこかの庭だ。青々とした芝生が目に優しい。
目の前には、愛おしい女性がこちらを見て何か話しかけていた。
「ここでいい?」 彼女は返事を待たず、慣れた手つきで木の根元をスコップで掘り始めた。
そして、何かをそっと土の中へと埋めていた。
そこに埋めたものが二人の未来そのものであったかのような、そんな途方もない喪失感を伴う断片的な記憶だった。
意識が闇に溶けていく。
無数の光の点が繋がりあっては巨大な神経回路――シナプスを形作っていく幻影が、脳裏を駆け巡った。
2032年6月22日、火曜日。20時10分ごろ。
まず感じたのは、重く、冷たい何かに包まれるような感覚。
それは、無重力空間に漂っているかのようであり、同時に、深海の底に沈んでいくようでもあった。
肉体という重い檻から解き放たれた魂が、どこかへと誘われていくようだった。
どれほどの時間がそうして過ぎたのか。数秒だったのか、それとも永遠だったのか。やがて、その闇の中に、無数の光が現れ始めた。
それはまるで、宇宙の星々が瞬くようであり、あるいは、脳の神経回路が脈動しているようでもあった。
一つ一つの光は、遠目には淡い青白い球体に見えるが、近づくにつれて、その内部に広大な宇宙の映像が映し出されているのが見て取れた。
気づけば彼は自身がその光の海の中にいることを悟った。
その中で、最も大きく、眩い光を放つ存在が、崇史の目の前にゆっくりと姿を現した。
それは、形を持たないにもかかわらず、圧倒的な質量と知性、そして冷徹な意志を放っていた。光の塊の中心から、直接脳に語りかけるような声が響く。
声に感情はなく、それはまるで、無限のデータ処理の果てに紡ぎ出された純粋な情報そのもののようだった。
「ようこそ、サーバー: α1.2-Laniakea-Virgo-08::Unit: Soul.KT-32[Flag:Detonator]」
その言葉と光景に、崇史は混乱する。 (何を言ってる…? ここは、何だ…?) 光の存在は、崇史の混乱など意に介さず、一方的に言葉を続けた。
彼の魂に、許容量を超えた情報がまるで濁流のように流れ込んだ。
世界の法則、生命の定義、時空の構造。自分が「現実」と信じてきた全てが、高次元の存在が描いた設計図の、ただの文字列に過ぎなかったという絶望的な認識。
家族との愛しい日々さえも、誰かの掌の上で演じられた、作り物の物語であったかのような感覚。
彼の精神が、その情報量の重みに押し潰されそうになる。
意識が完全に途切れる寸前、光の存在が、最後の情報を焼き付けるように告げた。
「お前には、もう一度…。その時が来れば、わかる。…これが最後の、機会だ」
そして、再びの闇。 魂に刻まれたのは、無慈悲な真実と、この最後の言葉だけだった。
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