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第三十六章:宣戦布告

巨大な脳の、末端の細胞。そして、遠巻きに見るだけの警察。崇史は、この国がすでに乗っ取られていることを確信する。

 2032年8月6日、金曜日。20時45分ごろ。

男たちは、崇史の突きつけた選択に、お互いに顔を見合わせるだけだった。やがて、その中の一人…おそらく、この場のリーダー格なのだろう、流暢な日本語を話す男が、口を開いた。

「お前が知りたいのは、俺たちが誰の指示で動いているか、だろ?要は、一番上のボスが誰かと、そう聞いているのか?」

「そうだな」崇史は短く答える。

「では聞くが」男は、なぜか薄笑いを浮かべた。「お前が言う『俺たち』とは、どこまでの範囲を指しているんだ?」

「…どういう意味だ?」

崇史が聞き返すと、男は、心底おかしそうに言った。

「やはりな。お前は、多分、全く何も分かっていない」

「禅問答をするつもりはない。分かりやすく言え」

崇史が苛立ちを滲ませると、男は楽しそうに続けた。

「いいだろう。俺たちの同胞が、この日本にどれだけいると思っている?俺たちのような“兵士”から、社会に溶け込んで、ごく普通の一般人として暮らしている者まで、様々だ」

そこまで話した時、別の男が叫んだ。

「よせ!それ以上話すな!」

崇史は、その男に、無言で銃口を向けた。男は、びくりと体を震わせ、渋々口をつぐむ。崇史は、話していた男に、顎で「続けろ」と促した。

「俺たちの同胞は、この日本に、少なくとも100万人はいる。そして、その全員が、有事の際は、命令一つで一斉に蜂起するだろう」

男は、うっとりとさえした表情で語る。

「ここにいる俺たちは、その中の、ほんの末端に過ぎない。そして、俺たち自身も、誰から直接指示が出ているのかは知らないんだ。俺たちは、全体で一つ。命令は、様々な手段で、末端まで伝えられる。それが、どこから発信されているのか、俺たち下っ端には知る由もないし、知る意味もない。我々は、巨大な脳の、末端の細胞でしかないのだからな」

そこまで聞いて、崇史は全てを理解した。

(…なるほど。こいつらに、個人の意思はない。命令を下している本当の黒幕は、この国にはいない、か)

「…わかったよ」

崇史は静かに言った。「今日はもう充分だ。お前たち、その装備と、そこのデカブツを連れて、とっとと帰れ」

男たちは、その意外な言葉に、顔を見合わせる。

「ただし」と、崇史は続けた。その声は、絶対零度の冷たさを帯びていた。

「よく聞け。俺はこれから、この日本に巣食う害虫を、一匹残らず駆除する。次に会った時は、お前たちの命はないと思え。それが嫌なら、仲間全員に伝えろ。『今すぐ、この国から出ていけ』と」

男たちは、恐怖と混乱に顔を歪ませながらも、大男を担ぎ上げ、ほうほうの体でバーの外へ出て行った。


男たちが去り、静寂が戻った店内で、崇史は一つの視線に気づいた。カウンターの後ろ。さっきまで床に転がっていた、あの黒服の男が、いつの間にか意識を取り戻し、こちらをじっと見ていた。その目には、恐怖と、わずかな好奇のような色が混じっている。

二人の視線が、交差する。

「…お前も、とっとと失せろ」

崇史が低く言うと、男は、一度だけ、こくりと頷いた。そして、よろめく足で立ち上がると、仲間たちとは別の出口から、音もなく姿を消した。

誰もいなくなった店内で、崇史は、天井の隅にある監視カメラに、すっと顔を向けた。

そして、カメラを指差し、その指で、ゆっくりと自分の首を掻き切るジェスチャーをしてみせた。


崇史が外に出ると、少し離れた所に停まっていた黒いバンに、男たちが乗り込むところだった。

そして、その先の路地の向こうには、無数のパトカーの赤色灯が、音もなく点滅しているのが見えた。だが、警察官たちは、遠巻きにこちらを見ているだけで、崇史を追ってこようとはしない。

その光景が意味するものを理解した時、崇史は、ほんの少しでも楽観的だった自分を、静かに後悔し始めていた。(…そうか。警察も、もう、奴らの支配下にあるのか)

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

今回の話はいかがでしたでしょうか?

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