第三十三章:掃討
「お前はもう終わりだ」――その言葉を合図に、戦闘部隊が突入する。だが、崇史にとっては、それすらも格好の実験材料に過ぎなかった。
2032年8月6日、金曜日。20時30分ごろ。
大男が、ゆっくりと目を覚ます。
崇史は、その巨体の目の前に、中腰で立っていた。目の前の崇史の姿を認識するなり、大男は、獣のような雄叫びを上げて、すぐさま体勢を立て直そうと起き上がる。そして、何も言わずに、再び崇史に襲い掛かってきた。
(この男…場慣れしているな)
崇史は冷静にそう判断した。男の、単純だが殺意に満ちた攻撃を、するりとかわし、流れるように背後を取る。
「動くな」
拾い上げた拳銃の、冷たい銃口を、男の後頭部に突き付けた。男の動きが、ピタリと止まる。
「おとなしくしていれば、命は奪わない。…まあ、この後の状況にもよるがな」
崇史は、冷たく言い放った。
「さて、お前たちは何者だ?いつからここにいる?何が目的なんだ。そして、お前はどこの国からやってきた?俺の言っていることが分かるか?分かったら、ゆっくりとこっちを向け」
男は、言葉を理解したのだろう。ゆっくりと、崇史の方へ振り向いた。
その顔は、なぜか、笑っていた。
「オマエハ、モウ、オワリダ」
片言の日本語が、嘲るように紡がれる。
「ナニモ、ワカッテナイ。オレタチガ、ナニモノカ、ナンテ、オマエガ、シッテモ、イミナイ。ダカラ、オシエナイ」
(…なるほど。仲間が、もうすぐそこまで来ている、というわけか)
崇史は、まあ仕方ないか、と思った。どのみち、これから**『お友達』**がたくさん来るのだ。そいつらに聞けばいい。
「わかったよ。お仲間がもうすぐ来るんだろ。それまで、お前はそこに座ってろ」
崇史は、ソファを顎で示すと、自身はカウンターの椅子に腰掛け、残っていたまずいビールを飲み始めた。
「…来たか」
崇史が、ぬるいビールを飲み干した、その瞬間だった。
彼の周りの時間が、粘土のように、ねっとりと引き伸ばされた。複数の荒々しい足音が、ドアの前でピタリと止まる。
次の瞬間、店のドアが、轟音と共に内側へと蹴破られた。黒い戦闘服に身を包んだ男たちが、銃口をこちらに向けながら、一斉になだれ込んでくる。その手には、殺傷能力の高そうなアサルトライフルが握られていた。
そして、彼らが、カウンターでビールを飲んでいる崇史の姿を見るなり、一斉に発砲してきた。
その瞬間、崇史の世界が、完全に凍てついた。
(さすがだ。ドラマみたいに、悠長な会話は始まらないんだな)
崇史には、そんなことを考える余裕が、十分すぎるほどにあった。
凍てついた銃口から放たれた、オレンジ色の閃光。空中に静止する、無数の弾丸。
全部で5人。
凍てついた時間の中を、崇史は、まるでダンスを踊るように、弾丸が描く死の軌跡をすり抜けていく。まず一人目。その銃口が微調整されるよりも早く、崇史は男の懐に滑り込み、その首を、手刀で正確に刈り取った。二人目。驚愕に見開かれたその目に、崇史自身の冷たい目が映り込む。次の瞬間、男の心臓の真上に、的確に拳が突き刺さっていた。残りの三人も、同じだった。抵抗も、悲鳴を上げる暇さえ与えられず、ただ、無慈悲に急所を破壊されていく。
崇史が、最後の五人目の男を床に沈めたところで、張り詰めていた時間が、ふっと軽くなった。
静寂が戻った店内で、崇史は、じんじんと痛む自分の拳を見下ろした。
(…素手では、効率が悪い。次からは、俺も『武器』を使おう)
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