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第二十八章:別れと誓い

思い出の詰まった我が家に別れを告げ、崇史は『破壊者』として旅立つ。彼の新たな目的は、魂が搾取されない世界を創ること。


 2032年8月6日、金曜日。昼下がり。

香と別れた崇史は、一度だけ、自宅に戻った。

リビングのテーブルには、小さな二つの骨壺が、静かに置かれている。彼はその前に座り込み、冷たくなったそれに、そっと指で触れた。

「…今、お前たちは、多分どこか新しい器の中で、俺のことなど何も知らずに生きてるんだろうな」

声に出した言葉は、誰に届くでもなく、がらんとした部屋に吸い込まれていく。

「すまないな…」

崇史は、深く頭を下げた。

「これから俺は、この世界を、本当の意味での地獄に変えてしまうかもしれない。そうしたら、またお前たちを死なせてしまうことになるかもしれない。でもな、俺がこれを成し遂げれば、ひょっとしたら…本当に、いい世界が作れるんじゃないかって…」

そこまで言って、崇史は自嘲するように、かぶりを振った。

「…それも、違うか」

そうだ、違う。管理者の世界に行ったところで、待っているのは、また別の戦いだけ。どこまで行っても、搾取されるだけの運命。ならば――。

「俺に出来るのは、この世界を…」

崇史の目に、静かだが、燃えるような光が宿る。

「…奴ら(管理者)が求める、『兵士』になどならなくてもいい世界。誰もが、誰かの犠牲にならずに済む。そんな世界を、俺が創る」

それが、この理不尽なゲーム盤の上で、彼が見つけ出した、唯一の答えだった。


崇史は自分にそう言い聞かせると、静かに立ち上がり、骨壺に最後の別れを告げた。

もう、この家に戻ることはないだろう。貯金は、まだ少し残っている。それが尽きるまでに、全てを終わらせる。

彼は、クローゼeットの奥からリュックサックを引っ張り出すと、数日分の着替えと、現金、そして、彼の頭脳そのものである、あの『思考端末 AURA』を静かに詰め込んだ。

最後に、彼は庭に植わった一本の木を見上げた。青々とした葉が、風に揺れている。

(そういえば、あそこに…)

妻が、何かを埋めていた、あの日の記憶。だが、今はもう、それを掘り起こす時ではない。

崇史は、過去の全てに蓋をするように玄関のドアを閉め、二度と振り返ることなく歩き出した。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

今回の話はいかがでしたでしょうか?

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