第二十五章:破壊者の計画
再び訪れた特捜の拠点。復讐を誓ったはずの男の口から出たのは、絶望か、それとも新たな計画の一端か――「俺を殺してくれ」
2032年8月5日、木曜日。午後15時ごろ。
崇史は、新木場駅近くの、あの倉庫の前に立っていた。
インターホンも何もない、ただの無機質な鉄の扉。しかし、彼が扉の前に立つとすぐに、スピーカーから彼女の声が聞こえた。
「入って」 その声と同時に、カチリ、と内側から鍵が開く重い音がした。
崇史は扉を開けて中に入る。相変わらず、だだっ広い空間に、ソファとテーブルだけが置かれた殺風景な部屋だ。香は、すでにテーブルの前に立っており、彼の顔を見るなり、少し呆れたように言った。
「もう少し休ませてくれるかと思ったけど、意外に早かったわね」
そう言いながら、彼女は崇史にマグカップを差し出す。湯気の立つ、インスタントコーヒーだった。 崇史はそれを受け取りながら、気になっていたことを尋ねた。
「山下は、ひょっとしてここに住んでるのか?」
「香でいいわよ」 彼女は、ほんの少しだけ微笑みながら言った。
だが、その目は笑っていない。
「でも、その質問には答えられない。お互いのプライベートは、深く知らないほうがいいと思う」
(俺のことは、ほとんど調べてあるくせに…)
崇史は心の中で毒づきながらも、黙って頷いた。
「そうだな」 彼はそう言って、ソファに深く腰を下ろす。香は、彼の向かいに立つと、テーブルに寄りかかった。
「それで、頼みたいことって何?」
彼女が、本題を切り出す。 崇史は、手に持ったマグカップの中、揺れる黒い液体をじっと見つめていた。やがて、覚悟を決めたように顔を上げ、彼女の目を真っ直ぐに見据えると、静かに、しかしはっきりとした口調で言った。
「俺を殺してくれ」
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