第二十二章:世界の理
崇史はあの時の記憶を取り戻す
ここは魂を選別する『狭間』。管理者から語られる世界の理は、地球が『地獄』であり、人類が『資源』であるという絶望的な真実だった。
2032年8月2日、月曜日。18時05分ごろ。
ホームの喧騒が、急速に遠のいていく。割れるような頭痛も、鳴り響いていた耳鳴りも、嘘のように消え去った。
目の前には、ただ、あの青白い光の海が広がっていた。
そして、圧倒的な質量と知性を持つ、巨大な光の存在。
(ここは…?あの時の記憶?)
崇史の思考が、疑問の形を取る。
『ここは『狭間』。あなた達を選別する場所』
直接、脳に声が響く。あの時の管理者だ。
(選別…?何を…)
『ここに来たということは、あなたの『器』が機能を停止したということ』
器、という言葉の意味を、崇史は冷静に問い返した。
(器…?)
『あなた達の言葉で言えば、『死んだ』ということだ』
死。その言葉に、不思議と何の感情も湧かなかった。ただの情報として、思考に記録されるだけだった。
(そうか、俺は死んだのか…。なら、家族は…妻と、娘はどうなった)
『あなたの家族のデータは、選別審査の結果、規定値に達しなかった。よって、記録を初期化し、再度この地獄に転生させた』
(戻った…?生き返った、ということか?)
『Unit: α1.2-Laniakea-Virgo-08::Soul.KT-32[Flag:Detonator]。あなたには、起爆剤として、また器に戻ってもらいます』
その言葉には、拒否も、選択の余地も感じられなかった。
『その前に、この世界の『理』を伝えます』
管理者の言葉と共に、崇史の意識は、さらに深い情報の大海へと引きずり込まれた。
『まず、あなた達が「現実」と呼ぶこの宇宙は、我々が創り出したシミュレーションの一つに過ぎない』
『あなた達は、元は我々と同じ次元に存在したエネルギー生命体…「魂」だ。だが、あなた達は我々の世界に「ふさわしくない」と判断され、この地球という名の修行場へ、追放された』
『あなた達が宗教で語る「地獄」。それがこの地球の正体だ。そして我々の世界こそがあなた達が追い求める「天国」。あなた達はここで、我々が認める『良き魂』のレベルに達し、解脱できると判断されるまで、永遠に転生を繰り返す宿命にある』
崇史の思考は、感情を伴わず、ただ淡々とその途方もない真実を整理していく。
(地球は、魂の修行の場…。俺たちは、ここで何かを成し遂げるまで、何度も生まれ、何度も死ぬことを繰り返す…。そういうことか)
そこで、初めて彼の思考に、わずかな疑問が浮かんだ。
(でも、なぜ、いい魂を解脱させるのに、何の罪も無い善良な人間が苦しんで、悪党が繁栄してるんだ?)
管理者は、彼の疑問を即座に読み取り、答える。
『あなた達が言う善悪は、我々の基準では何の価値も持たない。我々が求めるのは、いかなる状況でも、他人を蹴落としてでも最後まで生き残ろうとする強靭な魂…つまり「兵士」だ。あなた達が「正義」と呼ぶ行いは、我々が求めるそれとは全く異なる』
管理者は、さらに続けた。
『だから我々は、混沌の時代が来るまで、あなた達をこの地獄でシミュレートし続ける。その極限状況でこそ、兵士としての素質を持つ魂が、最も効率よく**『収穫』**できるからだ。**ちなみに、お前の家族はその基準に達していなかったため、記録を初期化し、再度この地獄に転生させた。**所詮、あなた達は戦争のための駒であり、その“魂”は、我々の戦場で消費される、ただの『資源』に過ぎないのだから』
『もう時間だ』
そう言って、管理者の前に半透明のスクリーンが現れ、無数の文字列が流れていく。管理者は、その文字らしきものを指で何度か操作した。
すると、崇史の意識、その存在そのものが、一度光の粒子にまで分解され、そして瞬時に再構築されるような、理解を超えた感覚に襲われた。
『このサーバーへのテコ入れは、最後にしたいものだ』
管理者はそう呟くと、手を払いのけるような仕草をする。スクリーンがスッと消えた。
『行きなさい。そして、思うがままにかき乱して来るといい』
その言葉と共に、彼の魂に、ある言葉が深く焼き付けられた。
対象:Unit: α1.2-Laniakea-Virgo-08::Soul.KT-32[Flag:Detonator]、特殊能力を再付与し、サーバーへ再転送する。関連メモリは凍結。トリガーを検知次第、覚醒シーケンスへ移行。[お前には、もう一度特殊能力を授けて地球に戻ってもらう。記憶は消されるがその時が来ればわかる]…これが最後の起爆剤となればいいが。』
そう言い終わると、管理者の巨大な光がスッと消えた。すると、今まで明るかったその場所が、完全な漆黒の闇に変わった。
そして崇史もまた、その闇に溶け込むような感覚になり、完全に意識を手放した。
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