第十六章:粛清
響き渡る銃声、そして冷徹な「後始末」。ヤマシタの豹変は、崇史を想像を絶する世界の深淵へと引きずり込む。
2032年7月30日、金曜日。22時過ぎ。
このやり取りをしている間に、拘束した男たちの何人かが意識を取り戻していた。こちらに気が付き、手足を動かそうとしている。「ここにはもう長くは居れない。それにこの件を私は上に報告できない。だからこうするしかないの」
そう言うと彼女は床に落ちていた拳銃を拾い上げ、何の躊躇もなく、意識を取り戻した男たちの眉間に、正確に弾丸を撃ち込んでいく。乾いた銃声が、狭い室内に次々と響き渡る。崇史の鼻を、ツンと刺す硝煙の匂いが満たした。
崇史は、その非現実的な光景を前に、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
(こんなことって・・・どうなってる?これは本当に俺が知っている日本なのか?)
崇史は自分の身に起こっている特殊な能力の事を棚に上げ、今見た現実のほうが受け入れられなかった。
(確かに世界には裏と表があることはわかる。国ともなればそれ相当の闇もあるだろう。しかしいま目の前で見ている事は俺の想像をはるかに超える。まだ30にもなっていないだろう、女性がこんなことを・・・)
もう何が何だか崇史にはわからなかった。
「終わったわ。あまり時間がない、早くここを出ましょう。表にタクシーを待たせてる」
どうやら彼女はタクシーでここにきて、そしてそのタクシーを待たせているという事は、そもそもここには長居する用事は無かったのだろう。崇史が我に返る。
「おい、お前、何てことを…!」
「心配しないで。この者たちはS国の人間。あなたの家族の件とは無関係よ」
「詳しいことはここを離れてからよ、安全な場所に移動しましょう」
そういって彼女はそのまま銃を後ろポケットにしまい、出口に向かって歩き始める。少し前の彼女とは別人みたいな落ち着いた態度に崇史はあっけにとられる。さっきまでは確かに俺が主導権を握っていたはずだ。なのに今は彼女が主導権を握っている。
(この女…ただ者じゃない。気を付けなければ…)
崇史はそう思いながら彼女に続いて部屋を出て行った。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
今回の話はいかがでしたでしょうか?
もし「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、
ぜひページ下の☆☆☆での評価や、ブックマーク登録をしていただけると、
めちゃくちゃ執筆の励みになります!