プロローグ
音も光も、時間さえも溶け落ちたかのような薄暗い虚空。
そこに数えきれないほどの青白い球体が、まるで墓標のように整然と浮かんでいた。
遠目にはただの淡い光の玉。だが、意識を寄せれば、その一つ一つが脳の神経回路のように複雑に絡み合った光の網で編まれた、一つの閉じた『世界』であることがわかる。
その無数にある光の墓標の中で、いくつかが脈動するように赤く点滅していた。致命的なエラーだ。
一体の『それ』が、赤く点滅する球体の一つに音もなく近づく。
空中に半透明の操作パネルを呼び出し、エラーログを確認した。
サーバーID:α1.2-Laniakea-Virgo-08
エラーコード:文明基盤の自壊による停止
『それ』はゆっくりと振り返り、背後に立つ『別のそれ』に無感情な視線を向けた。報告も指示の要求も、その視線だけで完結している。
『別のそれ』は、その視線と赤く点滅する光に気づくと億劫そうに歩み寄り、同じようにエラーログを確認する。そして、効率の悪さへのわずかな苛立ちを滲ませて吐き捨てた。
「…また、このタイミングか」
『別のそれ』は続けた。
「このサーバーはもう見込みがない。何を試しても、解脱するのは僅か。収穫率が悪すぎる」
『それ』が応える。
「トリガーデータの注入も効果なし。リプレイ結果は、全て同一の結末に収束しました」
『別のそれ』は、思考するまでもないというように即座に結論を告げた。
「再起動を。次も同一事象で停止するなら…破棄だ」
『それ』は小さく頷くと、目の前の操作パネルで再起動のコマンドを呼び出した。無機質な動作で『REBOOT』を押す。
無数の青白い世界の中で、α1.2-Laniakea-Virgo-08と名付けられた赤い世界が、一瞬強く閃光を放ち――そして、静かに消え去った。
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