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9・おっさんは気を引き締める

 村に到着し、ギルドへと入ると、早速氷風狼(ブリザードウルフ)に襲われたことを告げる。


「なんだと!よく無事だったな」


 受付に居た中年にそう驚かれたが、さらに倒したと告げるとより驚かれることになった。


「倒した?そうか、ハグレだったのか。それにしたって倒せたのは幸運だったな!」


 そう笑う中年受付に促されて買取カウンターへと向かったおっさんは、巾着袋から六頭のオオカミを取り出した。


「・・・・・・」


 受付は口を開けたまま固まってしまう。そこへ何事かと異変に気付いた他の職員や冒険者もやってきてさらに騒ぎが拡大した。


「ふたりで倒したのか?群れだったんだろ?」


 と、いかにも冒険者と言った風体の巨漢がエミリーに問いかける。


「いえ、倒したのはダイキさんひとりです。魔弓の使い手なので、ほぼ一方的に・・・・・・」


 そう言っておっさんに助けを求めるような視線を送るエミリーだったが、おっさんもどう答えて良いやら分からなかった。


「いやぁ、凄いね!最近の失踪騒ぎの原因、こいつ等かも知れないね!!」


 という女冒険者の言葉で場が息をのむのが分かった。


「おい、待てよ。って事は、これまでずっと増援の冒険者が来てないのって、お前・・・・・・」


 事態はおっさんの予想外の方向へと向かって行く。


 この辺りで雪が降り始めた20日ほど前、おっさんが王都でカメを探していた頃の話し、この村では畑仕事をしていた農民が忽然と消える時間が発生していた。

 それから数日のうちに局地的な吹雪を複数の村人や冒険者が目撃した事から、氷風狼(ブリザードウルフ)の襲来が予想され、急いで東征村へと増援依頼が出されることとなった。


 氷風狼(ブリザードウルフ)の襲来ともなれば村に在住する冒険者だけでは手が足りず、多くの冒険者を必要とするのが常識だからだ。

 増援依頼を届けた事は確認されたが、それ以後冒険者はこの村へは僅か3パーティしか訪れていない。依頼を出したのだから、その倍は来ていないとおかしいのだが、この5日程度はパッタリ誰も来なくなったという。


「村の周辺は巡回してたんだが、最近のオオカミの痕跡も辿れなくなっていてな、そうか、街道で待ち伏せしていやがったのか・・・・・・」


 思いもよらない事態に困惑したおっさんだったが、冒険者やギルド職員の切り替えは早かった。


「よし、まずは懸念された氷風狼(ブリザードウルフ)の群れは片付いたんだ、今日はパッとやろうじゃないか!!」


 そう言ってオオカミの討伐報酬から勝手に銀貨を抜いて、隣接する酒場へと走り出す中年受付。


「悪いな。ここじゃあ、祝い事には先ずはきっかけになった奴が金を出すんだよ」


 と、おっさんの肩を叩く狩人風な若者。


「ようし、お前ら、弔いだ!」


 と、酒で満たされた小樽を手に宣言する中年受付の言葉をきっかけに、酒場へとゾロゾロ向かう冒険者たちだった。 


 ギルド飯はそれぞれの地域性が現れており、東征村もヤギではなくウサギ中心のメニューだった。この村の場合は、淡白な肉にそれに合わせて香草で作られたバジルソース的なモノで味付されたものが中心らしく、おっさんが何の肉か尋ねるとシカの魔物だと返答があった。さらに林が近いので木の実も多く、王都よりもレパートリー豊富なことに驚くほどだった。


 そして翌日からおっさんも村の巡回に参加する事になった。


 朝が遅いおっさんだが、ここではそんなことは言っていられない。そもそも、王都の様に照明油なども潤沢ではないので、だいたい夕方の3時や4時くらいの頃合いには酒盛りを始める奴が出始め、日が沈んでしばらく経った7時前後頃には散会するのがこの村での日常であるらしい。


 その為、いくら夜が遅いおっさんといえど、空が白みだす6時前には目が覚めることになる。村には宿の様な贅沢なものはなく、冒険者はギルドが用意する宿舎の様なモノで寝泊まりし、一応宿の形態をとっているのでギルドに一定の宿泊料を支払う事になる。

 そんな粗末な建物なのだから、早く寝れば朝方には誰かが起き出した物音で目が覚め、廊下を歩く音がすれば自然と続いていくようになる。


「おう、新入りも来たか」


 誰とはなしにそう声を掛けられ、エミリーを探せば女性陣と何やら話をしているのを見つける。そのままそちらについて行くのだろうと準備をしていると


「ダイキさん、おはようございます」


 とやって来るエミリー。おっさんはあのままついて行けば良いのにと思ったが、さすがに口には出さなかった。

 そして、おっさんとエミリーは二人だけで氷風狼(ブリザードウルフ)を倒したことから、案内役のポーターを付けられたのみで巡回を行う事になった。

 おっさんからすれば案内役が居るのは良いが、さすがに買いかぶり過ぎではないのかと不安の方が先立っていた。

 村の冒険者たちからすれば、六頭を倒したことは英雄にも匹敵する快挙なのだが、おっさんは連射と速射の組み合わせを完成させない限り、次は上手くいかないだろうと危惧していたからだ。

 そして、自分だけが熱感知を使えるという状況も不安だった。出来ればエミリーにも覚えてもらって近接戦闘で助けてもらえないかなどと勝手なことも考えている。


 ポーターの説明によると、この辺りは林が点在しており魔物の数も多いらしく、シカの魔物がよく畑を荒らしに来るという。

 村では村人や冒険者用に魔草系作物も多く栽培しており、それが狙いと思われていたが、実は年貢用の麦も被害に遭っているという。

 おっさんは雪が積もる冬なのにと疑問に思ったが、雪の下ではすでに麦が芽吹いているらしい。それを貪りに来るという話だった。


「そして、そいつらを狙う狼の類もやって来る。氷風狼(ブリザードウルフ)はその時に人間を襲って味をしめたんだと思う」


 と、まるで日本の熊みたいな話をするポーター。


「おっさんと姉ちゃんは魔力も高いだろ?だから狙われたんだ。こういう時に村にやって来る冒険者はだいたいそうだから、村じゃなくて街道で待ち伏せしてたんだろうな」


 というポーター。


 それを聞いてより一層不安になるおっさん。


 この辺りのオオカミは群れで狩りをするので、おっさんは更なる速射が必要だと気を引き締める。


 そんなおっさんの不安を余所に、その日は巡回コースの案内と状況説明だけで日が暮れていった。気の早い者はおっさんが討伐した六頭で危機は去ったという認識の者もいたほどだ。

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