80・おっさんの冒険はこれからだ!
知らせを聞いたおっさんたちは、ショーコやカズキのキリの良い所で砦へと引き上げることにした。
数日掛けて砦に着いたころ、キャリーが気分が悪いと言い出す。
「はしゃぎ過ぎたんだろ、しばらく休んでろ」
いつものようにサンポが煽るのだが、
「ああ、うん。そうする・・・・・・」
キャリーは元気なく、宛がわれている部屋へと向かうのだった。
おっさんはキャリーを気にしながらも、まずは責任者のところへと向かい、東の出城での成果を報告する。もちろん、川を下ってオーガを討伐した話は殊更に強調することを忘れない。
「なるほど。はぐれの群れが巣にしていたという程度の話ではなく、南からオーガが獲物を求めてやって来る道筋の可能性がある訳か。そうなると、おちおち開拓などと呑気な事は言っていられないな」
おっさんが自分の成果を強調しすぎた余り、責任者の思考は別方向へと飛躍してしまった。
「そうなると、速やかに南の出城も完成させ、この冬までに要塞群としての機能を持たせておくべきだ。どの程度広がっているのか分からんが、ここより西には砂の海が湧きだしていると聞いている。今は西まで考えることは無かろう」
と、南の出城を今のうちに完成させ、越冬可能な設備と食料を搬入する事は確定事項となった。
確かに現在、東の出城でも果実が多く収穫され、周辺にソバの群生地もあった事から食糧には不安がない。
南へ行ってもこれまで見向きのしなかった自生のソバが群生する場所もあるものと予想される。
「南へ行けば、夏に芽を出すソバがそろそろ花を咲かせる頃かも知れない。ソバの群生地を見つければ、放棄された村の食料分くらいは補完できるだろう」
すでに砦の畑でも収穫直後に拓いた畑に撒いたソバが花を咲かせだしている。群生地が南にあれば同じ状態だろうから、それらを収穫すれば開拓村で得るはずだった麦の替わりにはなると胸を張るおっさん。
もちろん、おっさんにはそんな知識も自信もないのだが、ショーコが東の出城で解説したところによれば、王国ではほとんど知られていない種類のソバであり、栽培種として広まっている白い花が咲く種類ではなく、どこか綺麗ながらも避けたくなる赤い花が咲くと聞いていた。
そして、実際に砦に帰ってみれば、赤紫色をした、どこか怖さのある花を咲かせており、これまでは村人たちも花の色から手に取るのを避けていたらしい。
村人たちが避けていたソバを食べられるものとして証明したのがショーコであった。
これまで王国で栽培されていたソバとの最大の違いは魔素にあるとかで、魔物肉を美味しいと思わない人物が食べればソバも不味いモノであるらしく、西方から移入した食料ばかり食べる貴族や王都の役人たちにとっては、いくら栽培化しても口に合う事はないという話まで聞いている。
そうした他人の成果を自分の考えの様に語るおっさんに全幅の信頼を寄せた責任者は、
「そうか!では、早速カズキたちを伴って南へと出城を作ってくれたまえ!」
と、要請してくる。
おっさんたちは冒険者なので命令できる立場にはなく、一応、直接依頼という形をとることになる。めんどくさい話ではあるが、おっさんとしてもその方がありがたかった。なにせ金になるのだから。
こうして話をまとめて来たおっさんが、ショーコやカズキに話をしようと皆を探せば、呼び集めるまでもなく揃っているところを発見した。
「おいダイキ。話は終わったか?」
サンポが声を掛け、おっさんも輪に加わっていく
「じゃあ、おっさんも来たからもう一回説明するけど、カオリ、デキちゃった」
ショーコがそんな事を言うのでおっさんも驚いてしまった。
「そりゃあ、驚くよな。コイツ、こんな長期間掛けやがったんだからな」
サンポがコータにそう言う。その時点で価値観の違いを感じるおっさんである。
「ひとりにこんなにかかってるんじゃ、森人のところに連れていったら二、三年は掛かるんじゃないか?ダイキを見ろ、あっという間だったぞ」
と、斜め上の誉め言葉を頂いたおっさん。
だが、それはそれとして先に伝えることがあると切り出すおっさん。
「まあ、仕方ないよね。場所が場所なんだし、カオリがデキたからオーガ対策サボるって訳にはいかないんだし」
と、ショーコは前向きである。
「そうなると、コータは留守番だな。一緒に居てやると良い」
おっさんもそう言い、キャリーとコータ抜きのおっさんパーティにショーコとカズキは連れて行くという事で話がまとまった。
それから砦の依頼としてギルド支部へと出城要員募集の依頼を出す。
「まあ、しょうがないね。あー、子供かぁ」
まだ実感のないキャリーに会えば、納得顔でそんな事をいう。まだ子供を授かった実感はないらしい。
「身重で移動する訳にもいかないだろうから、砦で越冬だな。数年ここに腰を落ち着けることになるだろう」
おっさんもそう説明する。流石に身重のキャリーを連れ、拠点や東征村へ戻る事は現実的ではない。
それから数日掛けて冒険者を募り、新たにやって来た50人ほどの冒険者のうち20人ほどが出城へ詰め越冬する要員として名乗りを上げた。彼らにはエアーライフルが現物支給されるので、それがある意味報酬となる。
さらに兵士も10人ほど、騎士も2人、村人も夫婦ふた組ほどを連れて行く。
「応募したのは男ばかりかと思ったら、そうでもないんだな」
出発の日、おっさんが全員の前でポロっとそんな感想を漏らす。集まった冒険者のうち8人ほどはキャリーたちくらいの年齢の女性だったからだ。
「それはそうですよ。東へやって来る女性冒険者の多くはポーターから経験を積んでいる人たちなので、一旗揚げようとギルドに飛び込む男性より経験も知識も豊富ですから」
エミリーが胸を張ってそう言う。
確かにとおっさんも思う。魔力や魔法がある世界なので体力差は魔力量や魔法の熟練度で補えてしまい、男女差はあまり大きくない。そうなるとモノを言うのは経験と知識。素の筋力だけでデカい顔をする男など、子供に等しい世界なのだから。
「よし、今回の仕事を引き受けたリーダーのダイキだ。雪が降るまでに南の開拓村跡地付近に出城を建設する事になった。何、驚くことはない。カズキのスキルならあっという間に出城も出来上がる。お前たちが手に持っている武器を見れば、どれだけ凄いか分かるだろう?」
出発前に皆の前で説明をし、南へとおっさんたちは出発していった。
ひとまず、この話をもって完結としたいと思います。
気が向いたら続きを書くかもしれないけれど、今のところはここまで。
※新作『おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした』もよろしくお願いします。




